2015.0708
●まとめ
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今年のATDカンファレンスにあわせて、『パフォーマンス・コンサルティング-第3版』が出版されました。サブタイトルを入れると、『パフォーマンス・コンサルティング-人と組織にアプローチする戦略的なプロセスにより、組織業績を高め、効果を測定し、持続させる』という感じです。著者にはロビンソン夫妻にROIのフィリップス夫妻とDick Hanshawが加わり、5人の共著となりました。
新著は第2版がベースですが、パフォーマンス・コンサルティングの定義、プロセス、主要なモデルなどが微修正されており、実践事例がほぼ一新されました。この実践事例については、1995年の初版からロビンソン夫妻と親交のあるHandshawさんが実際に取り組んだ事例を非常にわかりやすくまとめています。
構成は最初に基本モデルを紹介し、その後は4フェーズ9ステップの実践プロセスにそって時系列に解説する形となっています。大雑把に言えば、前半2/3がパフォーマンス・コンサルティング、後半1/3がROIの内容です。つまり、第2版まではパフォーマンス現状分析中心の内容でしたが、第3版はパフォーマンス・コンサルティングのきっかけをつかむところからソリューション実施後の効果測定までを一冊にまとめたと言えるでしょう。
第2版の読者がこの第3版を読まれると、「パフォーマンス現状分析がコンパクトにまとまり、すっきりした」「モデルが微修正されて、HRやODの関係者にも使いやすくなった」「実践事例が一新され、より具体的なイメージが湧くようになった」「ROIを代表とする効果測定はパフォーマンス現状分析から始まると再認識した」といった感想をもたれるような気がします。
第3版で新しくなった点を少しだけふれておきます。以下の定義を比較すればわかるように、第2版では「クライアントとの協働」や「職場のパフォーマンス」を強調していましたが、第3版では「プロセス」であることや「人と組織のパフォーマンス強化」を強調しています。
ややマニアックになりますが、初版から第3版までの主な変更点を整理したのが次の図表です。おなじみの4つのニーズが少しずつ変化してきたのをご理解いただけると思います。また、第2版ではKen Blanchardとロビンソン夫妻の共著『Zap The GAPS!(1分間問題解決)』から定番だった「GAPS!」という表現が頻出していましたが、モデルが修正されたことにより第3版では消えています。
ご関心のある方は原書をご参照ください。また出版社とご縁があれば、翻訳にチャレンジしようと思っています。
このセッションの ポイントを整理すると次の4つになると思います。
Dana Robinsonはパフォーマンス・コンサルティングのニーズの階層構造などの基本モデル、Jack PhillipsはROIの基本プロセスとAlignment and Measurement Modelを紹介しました。
Danaさんはパフォーマンスコンサルタントの3原則として、①本当のクライアントと協働すること、②ニーズの階層構造とShould-Is-Causeロジックを使ってソリューションと事業成果の整合性を取ることを解説しました。2010年に引退宣言をして5年ぶりの登壇でしたが、相変わらずの健在ぶりでした。短時間で終わったのが残念でした。
続くPhillipsさんはおなじみの4フェーズ10ステップのROIプロセスに加えて、従来のVモデルをアレンジしたAlignment and Measurement Modelを紹介しました。これは、①ソリューション設計の前段階で行う現状分析、②ソリューション設計段階での成果目標の設定、③ソリューション実施後の効果測定の3フェーズの整合性を取るためのモデルです。各フェーズで効果測定の「1.反応レベル」から「5.ROI」までの5レベルで分析や設計をするためのツールになっています。
余談ですが、フィリップス夫妻のROI関連の著書は2015年7月時点で75冊あります。最近は様々な人との共著が増えていますが、「リーダーシップ開発のROI」「ODのROI」「モバイルラーニングのROI」などテーマを絞って書いている感じです。それだけ実践事例も増えているようなので、少し勉強しようと思っています。
研修効果測定 フィリップスのROIモデルの変化
このセッションの ポイントを整理すると次のようになると思います。
Jim Robinsonはパフォーマンス・コンサルティングの影響力の強い質問と二つのアプローチ、Dick Handshawは自身のインストラクショナルデザインモデルを中心に紹介しました。
Jimさんは2008年に引退宣言をして実に7年ぶりでしたが、年齢を感じさせないセッションでした。Should-Is-Causeのロジックを使って、本当のクライアントから事業ニーズやパフォーマンスニーズを問いかけ、クライアントにまだ十分なニーズ把握ができていないことに気づいてもらうことの重要性を解説しました。
アプローチはふたつです。
ひとつは、クライアントの相談を受けてからリフレイミングをして、パフォーマンス・コンサルティングのきっかけを見つけるパターンです。もうひとつは、事業計画が策定される時期に自らクライアントに働きかけ、支援のきっかけを見つけるパターンです。
「ASTD2014報告」でも述べましたが、Handshawさんはトレーニングで事業に役立つ成果を生むためには、最初にクライアントや現場のニーズをGapsマップで整理する必要があると強調しました。Handshawさんのインストラクショナルデザインモデルの最初は、まさしく、事業とパフォーマンスのギャップ分析から始まっています。
セッション参加者はパフォーマンス・コンサルタントが多く、Handshawさんのいつもの質問――「タスク分析をやっている人は?」「パフォーマンス目標を設定している人は?」に対し、「実践している」と手を上げた人が昨年よりかなり多かったのが印象的でした。
余談ですが、DanaさんはHandshawさんのパフォーマンス・コンサルティング実践事例を高く評価していました。
ATD 2015 Bookstore
実は2年ほど前にロビンソン夫妻から『パフォーマンス・コンサルティング第3版』を出すことになったというe-mailをもらい、目を疑いました。ロビンソン夫妻は2010年末で引退していましたし、過去のインタビューなどでは「第2版が最後の本になる」と言っていましたので、本当に驚きました。第2版を翻訳しながら、行間に二人の20年を超えるコンサルティング経験に基づき「あれもこれも伝えたい」という熱い思いを何度も感じていましたので、「えっ??」という感じでした。もう一度本を出すことに一番驚いたのはロビンソン夫妻だったかもしれません。
きっかけは2013年のISPIカンファレンスでロビンソン夫妻が Thomas F. Gilbert Distinguished Professional Achievement Awardを表彰され、ロビンソン夫妻とPhillipsさんが会食したときにあるようです。Phillipsさんが「第3版を一緒に書くというのはどう思う?」と共著を持ちかけてから、Patti Phillipsさん、Handshawさんとも相談して、それぞれのパフォーマンス・コンサルティングに関連する実践経験を一冊にすることがまとまったようです。
第3版を読んで気づいたのは、CLOよりもHR BPの方がたくさん事例に登場することです。また、ソリューションも研修というよりはキャリア開発の仕組みだったり、要員計画や上司のフィードバック内容だったり、職場環境に対する打ち手が多く登場することも印象的でした。パフォーマンス・コンサルティングは人材開発関係者にとどまらず、HRやODの人に活用されていること、ROIも研修効果に限らず、職場環境に対する打ち手に対しても適用されていることを再認識しました。
彼らに共通の思いは、「人と組織にかかわるソリューションを通じて事業成果に貢献する」ということだと思います。著者たちの実践には遠く及びませんが、日本企業でもパフォーマンス・コンサルティングの実践がさらに広がるよう精進を続けようと思います。
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鹿野 尚登 (しかの ひさと)
1998年にパフォーマンス・コンサルティングに出会い、25年以上になります。
パフォーマンス・コンサルティングは、日本企業の人事・人材開発のみなさまに必ずお役に立つと確信しています。
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