パフォーマンス・コンサルティング

若手人事・人材開発担当の方へ-②ATDに行く準備をしよう

若手人事・人材開発担当者の方へ-②ATDに行く準備をしよう

2015.0816
 

●まとめ

  • ATDにいつでも行けるように今できる準備をしよう。
  • ATDのサイトは既に中文で読めるようになっている。研修ベンダーを介さずに直接情報収集できるようになろう。
  • ATD会員になり、Webcastのarchiveで1時間のセッションを受講する練習をしよう。
  • ASTD Handbook 2014を1章ずつ読み、現在の主なトピックスを把握しよう。
  • ATDの底流に流れる基本的な知識を原書3冊から学ぼう。
  • 社内外に勉強会仲間を作り、議論しよう。

 

0.ATDにいつでも行けるように今できる準備をしよう

 

毎年6月になればATDカンファレンスの報告会がいくつか催されます。実際に参加してみて、「自分もいつかはATDに行きたいな」と思っている人は多いでしょう。また、報告を聞きながら「何だかわかったようでわからないな」と感じた人も多いのではないでしょうか?

ご存知かもしれませんが、ATDのサイトは既に中文で読めるようになっています。つまり、中国の人事・人材開発担当者はATDのサイトに掲載されている膨大な情報を母国語で読めるのです。グローバル化を推進している人事・人材開発担当者としては、ATDのサイトを英文でチェックし、直接情報収集するくらいでちょうどよいのではないでしょうか。そのくらいでないと「いつの間にか人材開発もガラパゴス」という笑えない状態になってしまうおそれがあります。いつまでも研修ベンダーに「今年のATDのトレンドはどうでしたか?」といった質問をしているようでは、アジアの優秀な若者に失笑されるかもしれません。

「TOEICの点数が不明の上司や先輩がATDに参加しているけど、きちんとした報告もないし、有効な投資になっていないのでは?」とぼやいているだけでは何も変わりません。みなさんが代わりにいつでも参加できるように、もしくは、自ら手を挙げて「ATDに参加させてください」と自信を持って言えるように、わずかな費用でできる準備を今すぐ始めましょう。お勧めしたいのは次の3つです。

 

  1. ATD会員になり、Webcastで1時間のセッションを受講する練習をしよう
  2. ASTD Handbook 2014を1章ずつ読み、現在の主なトピックスを把握しよう
  3. ATDの底流に流れる基本的な知識を原書3冊から学ぼう
1.ATD会員になり、Webcastで1時間のセッションを受講する練習をしよう

最初にお勧めしたいのは、ATDの Webcast Archive実際に1時間のセッションを体験することです。パワーポイントのスライドに沿った解説が45分前後、Q&Aが10分前後というのが一般的な構成です。

テーマは、タレントマネジメント、ソーシャルラーニング、モバイルラーニング、効果測定など様々ですが、実際のATDカンファレンスも似たようなものです。スピーカーはATDカンファレンスで発表している人が少なくありませんし、話すスピードはネイティブ向けなのでよい練習になります。

こういうと腰が引けるかもしれませんが、オフィスや自宅でWebcastを視聴するというのは実際のカンファレンスに参加するよりはるかにラクです。というのは、米国に行けばフライトや乗り継ぎで疲れますし、現地では13時間の時差があります。また、セッション中に近くの参加者と少し話し合うといった演習があるので、少し身構えて緊張します。さらに、当然ですが本番ではスピーカーの言ったことを一度聞き逃したらそれで終わりです。

一方、Webcastであれば聞き取れなかったら途中で止めてもう一度聞き直すことができます。また、ハンドアウトがダウンロードできる場合は先に目を通して概要を頭に入れて聞くことができます。逆に言えば、自宅でリラックスした状態で1時間のWebcastがしんどいと思うのであれば、まだATDに行く準備ができていないということかもしれません。

最初は聞き取れないことが多いかもしれませんが、数を重ねて繰り返しトライしていけば次第に慣れてきます。TOEICの点数だけを目指して勉強するよりは、実務に役立つ情報を英語で学ぶ方がきっと身が入ると思います。さらに、どのWebcastを視聴するか選ぶ過程で今のトピックスがどういうものか何となく見えてくると思います。

このWebcastを視聴するためには、$229払ってATDメンバーになる必要があります。月に2回、年間で24回、24~30時間ほど投資すればすぐにもとはとれるでしょう。ATDメンバーになれば、月刊誌『T+D』のデジタル版を読んだり、主な記事のPodcastを聞いたりすることもできますので、メンバー向けのサービスを使い倒せばかなりお得な投資になると思います。

2.ASTD Handbook 2014を1章ずつ読み、現在の主なトピックスを把握しよう

 

Webcastをいくつか視聴していくと、おそらく「前提となっている基本的な知識がないとわからない」と感じると思います。そこでお勧めしたいのが“ASTD Handbook 2014”を1章ずつ読むことです。

英語が聞き取れない原因のひとつとして「語彙力や背景となる知識の不足」がよくあげられます。もっというと、TOEIC900点でもATDのベースにあるID(Instructional Design)やPerformance Consultingなどの基本用語や基本的な考え方を知らなければ、正しく理解できないことがあるということです。

逆に言えば、IDやPerformance Consultingの基礎知識があればハンドアウトを見てスピーカーの主張のポイントをある程度推測できるようになり、多少聞き漏らすことがあっても何とかついていけるということです。

“ASTD Handbook 2014”は、ニーズアセスメント、ラーニングの設計開発、職場での実践と効果測定などの9つのセクションに分かれ、全部で55章、967ページという構成です。これも思わず腰が引けそうですが、1章ずつ見ていけばほとんどが12~20ページというボリュームです。このボリュームなので、各領域の現在のトピックスについてエッセンスがわかりやすくまとまっているという本です。

こちらも毎月2章ずつ読めば2年と少しで読破できます。ニーズアセスメントやラーニングの設計開発など、関心のあるセクションをまず集中的に読むということもできます。各章の著者がWebcastのスピーカーということも少なくありません。そういう人は今売り出し中の人なのだと察しがつきます。また、ATDでレジェンドとか重鎮として扱われている著者たちもすぐにわかるでしょう。

仕事で忙しい中、一人で読破するのは大変なことなので、職場の同僚や社外の知り合いと一緒に読書会をするといいかもしれません。ちなみにこの本のお値段ですが、ATDのサイトで会員として買えば約$106、Amazon(米)の中古本で買えば$72くらいです。送料を含めるともう少しかかりますが、これも2年分の勉強のネタと思えば安いものです。

筆者は今でこそハンドアウトを見て「これはIDのパフォーマンス目標のことをうまくビジュアル化して見せている」「2014年版セールスのコンピテンシーモデルはパフォーマンス・コンサルティングの職場環境要因を盛り込んでいる」「効果測定の4レベルはHPIそのものになってきた」などと感じるようになりましたが、最初はそんなことはさっぱりわかりませんでした。Performance Consultingの背景を知ろうと、無我夢中でISPIの”Handbook of HPT”初版(1992)、第二版(1999)、第三版(2006)と少しずつかじっていくことで理解が進んでいった覚えがあります。

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3.ATDの底流に流れる基本的な知識を原書3冊から学ぼう

 

“ASTD Handbook 2014”を読んでいくとIDなどの基本的な用語や考え方が反復して出てくるので、自然に基礎知識として頭に入ってくると思います。そして、もう少し体系的に知りたいという気持ちになるでしょう。そこで独断と偏見でお勧めしたいのが次の3冊です。ASTDコンピンテンシー2013でもふれたように、今後も特に重要とされる分野はIDとパフォーマンス・コンサルティングなので、この3冊をあげています。

3-① Harold D. Stolovitch and Erica J. Keeps, Telling A’int Training, 2011

この本には効果的なトレーニングを設計開発するための基本、IDの基本が詰まっていると思います。書名のTelling A’int Trainingとまったく同じタイトルのワークショップがATDで定期的に開催されており、おそらく10年以上続いているのも「ナルホド・・・」と思います。

著者のHarold D. Stolovitch と Erica J. Keepsは大学の先生で、ISPIのHandbook of HPTの初版、第二版の編著者でもあり、ロビンソン夫妻とも共著があります。

余談ですが、2005年のISPIカンファレンスでStolovitchさんのセッションに参加しましたが、細い体ながらとてもエネルギッシュなプレゼンで、75分があっという間の出来事だった記憶があります。

3-② Dana G. Robinson and James C. Robinson, Performance Consulting second edition, 2008

パフォーマンス・コンサルティング、HPIといえばロビンソン夫妻のこの一冊をあげるしかありません。手前味噌と言われるかもしれませんが、もはや古典・テキストとして扱われていますので外すわけにはいきません。

ATDの多くのセッションで「学習の成果を高めるためには、まず業績とパフォーマンスのギャップ分析をします。次に、そのギャップの原因分析をしますが、知識やスキルだけでなく職場環境も検討する必要があります。もし、知識・スキルの不足が原因であればトレーニングが解決策になります」などいう説明がよくされます。そのときに、パフォーマンス・コンサルティングの基本モデルが頭に入っていれば、かなり理解しやすいと思います。

補足ですが、2015年5月には第3版が出版されました。

パフォーマンス・コンサルティングⅡ
研修効果にこだわる人事・人材開発スタッフには、おすすめの一冊。人材開発部のビジネス志向を高めるための具体的なフレームを整理した本です。

  • 経営幹部から事業の観点で人材開発ニーズを聞きだす質問例
  • 多くのニーズを構造的にまとめるツール
  • 従業員のパフォーマンスが低いときの原因と対処例
  • 経営幹部の戦略実行を支援した多くの事例等

人材開発の上流で役立つ情報が満載です。

3-③ Julie Dirksen, Design for How People Learn, 2011

学術的な内容を写真やイラストをふんだんに入れて非常にわかりやすく、ユーモアを交えて解説している一冊です。「ID関係の本は非常に抽象的でわかりづらい」「ARCSモデルのAttentionを高めるための具体的方法を知りたい」と思ったことがある人にはぜひお勧めです。ビジュアルが多いので読んでいて楽しいです。

この本自体がe-ラーニング教材を設計するための「よい例」という感じです。Amazonのレビューは60件を超えており、そうしたくなるのも「ナルホドね・・・」という感じです。

韓国語版も登場しています。韓国企業の人たちはe-ラーニングをグローバルに研修を展開するときのツールと明確に位置づけているような気がします。

Design for How People Learn, 2016

Amazon.comでInstructional Designと検索するとトップで登場、専門書ですがレビューが900件以上あります。

「楽しい」というコメントが続出です。イラストや写真が多く、本当にありがたい本です。初版は韓国語訳あり。

以上、若手の人事・人材開発担当者向けにATD参加の準備として3つのことをご提案しました。独断と偏見ではありますが、ひとつでも取り入れて実践してみていただければ幸いです。

英語で学び始めれば一気に視野が広がると思います。何かご質問があればお気軽に。


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代表者プロフィール

鹿野 尚登 (しかの ひさと)

1998年にパフォーマンス・コンサルティングに出会い、25年以上になります。
パフォーマンス・コンサルティングは、日本企業の人事・人材開発のみなさまに必ずお役に立つと確信しています。

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