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The Chief Leaning Officer-印象に残る17人のCLOの言葉

The Chief Leaning Officer(2007)-印象に残る17人のCLOの言葉

2015.09.11

●まとめ

  • QualcommのCLO、Tamar ElkelesとROIのJack Phillipsの共著、The Chief Leaning Officer(2007年)の11章では、著名な17人のCLO(人材開発責任者)にインタビューを行い、彼らの考えをまとめている。
  • 学習部門のあるべき姿で共通しているのは、事業戦略や事業目標と学習施策を連動させ、事業に貢献するということである。そのためにCLOに求められる役割や要件についても共通したところが多く見られた。
  • 一方、学習と事業を連動させるための具体的な仕組みや組織運営は、組織によって微妙に異なるところがあり、非常に興味深い。特に、学習部門の具体的な成果指標や効果測定についての考え方にはばらつきがある。
  • 印象に残った言葉を抜粋したので、ぜひ、貴社の人材開発部門の同僚との議論の材料にしていただきたい。

 

1.Tamar Elkeles & Jack Phillips, The Chief Leaning Officer 概要

 

著者の1人、Tamar Elkelesさんは、1992年に学生インターンとしてQualcommに入り、ゼロから人材開発部門を立ち上げ、同社の急成長とともに人材開発機能を発展させてきました。ATDカンファレンスでもいくつか事例発表をしています。現在は同社のCLO(人材開発責任者)として活躍中です。本書は、人材開発の戦略性、事業貢献の仕方、人材開発の成果の示し方、タレントマネジメントのかかわり方、経営幹部の巻き込み方など、人材開発責任者として重要なテーマを解説した一冊です。

この本は今後(2007年時点)のCLOに必要な9つの役割を整理し、その内容を1章ずつ解説していく構成になっています。この9つの役割は、Elkelesさんが米国を中心とした著名な17人のCLOにインタビューした結果、抽出したものです。言い換えれば、この9つのことが優れたCLOに共通して見られたということです。最近のCLOの議論については、ASTD 2013年報告-これからの人材開発責任者の役割をご覧ください

単に9項目の箇条書きを転載してもわかりづらいので、思い切って次の3つに意味的に整理してみました。原書の並びとは違いますので、ご了承ください。

 

戦略的な機能を果たす学習部門のあり方を示す

  • L&Dは自社の戦略の重要な役割を担っていることを示す。
  • パフォーマンス重視の部門にシフトする。従来の学習ソリューションの枠を超え、学習以外のさまざまなソリューションを提供する。
  • 適切なタイミング、適切な場所で学習ができるように、学習の効率化に注力する。
  • タレントマネジメントはCLOの重要な責任のひとつとし、採用プロセスからリテンションまでを担当する。
  • 学習部門を効率的・効果的に運営する。さまざまなコストを理解し、予算の範囲内でうまく使い、学習部門を事業部のように運営する。

 

事業と学習部門を連動させる

  • L&Dの取り組みが必ず事業と連動するように思い切った手段をとり、事業課題に対処することをルーチンとする。
  • 経営幹部、特にCEOから惜しみない支援を確実にしてもらう。経営幹部が学習施策の立案や実行にかかわり、本気で取り組み、ロールモデルとなるように働きかける。

 

学習部門の成果を示す

  • L&Dに大きな投資をすると同時に、その価値を示すメカニズムをつくる。
  • L&Dの重要なプログラムが成功していること、プログラムには価値があることを証明し、利害関係者に説明する。経営陣や利害関係者にL&Dの価値を確実に理解してもらう。

Tamar Elkeles & Jack Phillips, The Chief Leaning Officer(2007)より作成

ちなみに、17人のCLOが所属していた組織(2007年当時)は、以下のような組織です。

それでは、著名なCLOが具体的にどのようなことを語っていたのか少し見ていきましょう。

 

2.印象に残ったCLOの言葉

 

17人と著者のElkelesさんすべてにふれると長くなるので、独断と偏見で特に印象に残ったものだけを抜粋しています。2007年の本なのでやや古い感じがするかもしれませんが、何か大事なことを言っている気がします。前後の文脈を無視して抜粋したり、意訳したりしているところがありますので、気になるところは原書をご確認ください。役職・所属は2007年当時のものです。

 

●戦略的な機能を果たす学習部門のあり方を示す

  • わたしたちは幹部と意思疎通して考え方をそろえているので、幹部が戦略を考えるときには、幹部なりに学習ニーズを考えている。幹部が大掛かりな施策を始めるときには、学習部門のメンバーに連絡してくる。そして、適切な学習施策を活用して戦略を実行できるようにする。学習部門の付加価値貢献とは、適切なスキルセットを開発する能力のことであり、その結果、組織全体にかかわる施策を実行できるようにすることだ。

- Frank Anderson, President of Defense Acquisition University

 

  • 高い成果をあげる教育・トレーニング部門とは、事業の優先課題・組織文化・事業の将来の方向性と教育・トレーニングの整合性をしっかりと取っている部門のことである。
  • コルゲートの学習部門の目標は明快だ――事業の成功に欠かせない重要なスキルを高めること、そして、従業員個人のキャリア開発を支援することだ。・・・特に重要なことは、ラインの幹部が人材開発プログラムの開発と実施の両方に責任を負っていることである。プログラムは教育・トレーニング部門の押し付けではなく、ラインの必要性に応じて検討され、本社から実行が委ねられる。

-Donna McNamara, VP of Global Education & Training, Colgate Palmolive

 

●事業と学習部門を連動させる

  • GEでもゴールドマンサックスでも教育研修の80%は自社の経営幹部が教えていた。経営幹部が学習部門をうろうろしていれば、幹部にもその価値がわかる。
  • ジャック・ウェルチはトレーニングが大好きで次のように言ったことがある。「景気が厳しいときはトレーニングを増やしてくれ。減らしてはいけない」
  • ゴールドマンサックスの学習部門は、上級役員会議が管理している。彼らとはデータを共有し、四半期ごとにいくつかレポートしている。
  • 「学習の場は、経営幹部のメッセージを伝える場である」ということを幹部に確信してもらわなければならない。

-Steve Kerr, Managing Director and CLO, Goldman Sachs

 

  • 多くの企業では事業責任者の意見やアイデアをもとに学習計画をつくる。・・・クアルコムでは、毎年、各事業部の従業員やマネジャー20~120人程度にインタビューを行い、かなり掘り下げたニーズアセスメントを実施している。学習部門のスタッフが社内コンサルティングを行い、さまざまなニーズが集まってくる。これらのニーズをもとに総合的な学習戦略を立案し、それを経営陣と各事業の責任者がレビューする。この学習プランにそって各事業部のすべての学習施策の方向性が決まり、施策の適切性・関連性・予算が承認される。学習プランは半年ごとにレビューを受ける。経営幹部に最新の状況を報告し、進捗が確認される。

-Tamar Elkeles, CLO, Qualcomm

 

●学習部門の成果を示す

  • IBMでは事業にとっての価値(レベル4)をみる指標に力を入れている。効果測定の手法としては、コントロールグループ、既受講者群と未受講者群の違いを統計的に比較することが一番よい。トレーニングを受講した人と未受講の人のグループインタビューをすることは、CLOにとっても有益である。IBMではトレーニングを受講したグループの業績を分析する方法をいろいろと試しており、未受講グループの業績との比較方法もいろいろと模索している。
  • 事業にかかわる本当の指標は、目標達成率と従業員の意見調査結果の二つだ。信用できる指標は人にかかわる指標であり、学習そのものを評価する指標ではない。

-Ted Hoff, Vice President of Learning, IBM

 

  • CLOはROIにかかわる質問を避けた方がよい。学習のコストはわかるが、得られたメリットはわからないからだ。CLOは学習に無駄なコストはないと自信を持って言い切れることが重要だ。学習予算は経営幹部が誤った意思決定をして被るコストよりも安い。目指すことは、優秀な人材を組織にとどめ、組織がさらに優れた意思決定をできるようにすることである。

-Steve Kerr, Managing Director and CLO, Goldman Sachs

3.CLO成功のカギ

 

CLOとして成功するために必要なことをいろいろと語っているのですが、特に印象に残ったのが以下のようなフレーズです。

 

  • CLOは学習を阻害している要因を取り除くことに集中しなければならない。
  • CLOは時間をかけて組織文化、価値、経営幹部のことを理解しなければならない。
  • 本当に学習する企業文化があれば、CLOは自らの役割を正当化する必要はない。従業員の飽くことのない学習意欲を満たす仕事に集中すればよい。
  • CLOは業績を向上させるための組織のレバーをすべて持っているわけではない。・・・報酬、福利厚生、パフォーマンスマネジメントなどのレバーがどのように作用するのかを理解し、学習のさまざまな仕掛けと整合性を取る方法を見つけなければならない。
  • CLO自らが学びを止めればそこで成長が終わり、キャリアの最後の日が近づくことになる。・・・CLOは学ぶことに貪欲でなければならないし、自社の学ぶ文化を創らなければならない。

-Bob Corcoran, VP of Corporate Citizenship, CLO and President of GE Foundation

 

  • CLOは自分の時間と予算の10%をフォローに使って、以下のことを自問するとよい。

①スキルギャップ―――適切なスキルを学習ターゲットとして選んでいるか?

②学習プログラムはうまくまわっているか?

③効果は出ているか?成果はあったか?

-Kevin Wilde, VP and CLO, General Mills

 

  • CLOの役割とは社外の情報を取り入れて自社にあわせて消化し、その知見を社内に伝えることだと確信している。ベストプラクティスやさまざまな考え方を自社に持ち込みなさい。会社は特定の考え方を拒否するかもしれないが、CLOとしては関係者に受け入れてもらうようにするのだ。
  • CLOは経費をやりくりし、偉い人たちをうまく使って、より多くの成果を得なければなない。学習は安いものだということを示さなければならない。経営幹部を巻き込みなさい。・・・ベンチマークする必要はあるが、第三者のレポートを当てにしてはいけない。

-Steve Kerr, Managing Director and CLO, Goldman Sachs

 

  • 成功しているCLOには他の人とは違う重要なスキルがある。・・・彼らはトレーニングの問題と仕事に対するモチベーションの問題の違いを正しく理解している。・・・彼らは事業というもの、その事業を左右する要因を正しく理解している。
  • 今のCLOに欠かせないスキルはたくさんあるが、これから非常に大事になってくるスキルは、①ITの活用、②学びを業務フローに組み込むこと、③新興国市場における人材の早期育成である。

-Allan Weisberg, VP of Organization Capability, Johnson & Johnson


もっと新しい情報がほしい方は次の本がお勧めです。著者はSAPのCLOです。営業プロセスのKPIデータを分析して業績不振の営業担当者をコーチングし、業績改善に導く小説仕立てのストーリーになっており、プロセスごとに解説しています。上記の「①ITの活用、②学びを業務フローに組み込む」という学習のイメージに近いのではないかと思います。

観点は違いますが、以下の本もお勧めです。著者はダイムラー・サービスやBPグループでCLOだった人で、現在はIMDのビジネススクールの教授です。
ビジネスラインとのかかわり方、モバイルラーニング、人材開発部門スタッフに必要なスキル、CLO、効果測定、部門のガバナンスなど、最新のトピックスが網羅されており、今考えるべきことのヒントが非常に多く詰まっていると思います。特に、研修の効果測定のこれまでの40年を50件近い論文や文献を引きながら丁寧に論じている5章は印象的です。

人材開発の効果的なニーズの把握と整理にはコツがあります

パフォーマンス・コンサルティングⅡ
研修効果にこだわる人事・人材開発スタッフには、おすすめの一冊。人材開発部のビジネス志向を高めるための具体的なフレームを整理した本です。

  • 経営幹部から事業の観点で人材開発ニーズを聞きだす質問例
  • 多くのニーズを構造的にまとめるツール
  • 従業員のパフォーマンスが低いときの原因と対処例
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人材開発の上流で役立つ情報が満載です。

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鹿野 尚登 (しかの ひさと)

1998年にパフォーマンス・コンサルティングに出会い、25年以上になります。
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