では、何が原因でパフォーマンスが低くなるのでしょうか?この原因がわかれば従業員のパフォーマンスを改善できます。
人のパフォーマンスに影響を及ぼす要因を整理したモデルはたくさんありますが、まず基本とされているギルバートの行動エンジニアリングモデル、6つの要因を見ていきましょう(Thomas Gilbert, Human Competence,1978)。
ギルバートは、「人が本来の力を発揮できないとき」、つまりパフォーマンスが低いときの原因を職場環境要因と個人要因の大きくふたつに分けています。
では、ギルバートの言っていることを現在の職場に置き換えて、ざっとその意味合い見ていきましょう。
「パフォーマンスが低いとき」のよくある原因の1つ目は、上司の期待成果があいまいなときです。
たとえば、上司は部や課の方針を軽く説明するものの、何を期待しているのか具体的な説明がないようなときです。目標設定面談など話し合いの機会があっても、上司が期待していることを具体的に伝えていません。上司は非常に忙しいため、部下の行動や成果について特に何も言わず、アドバイスをしないという状況です。たまにほめることがあっても抽象的で、どこがよいのか部下に伝わっていません。また、さらに、部下の仕事の進捗や品質が見える仕組みもない状態です。
もし、このような状況だとすると、部下は何をどのようにどのレベルまでやればいいのか、おそらくわからないでしょう。また、「自分は期待されていないんだ」「現状でOKなんだ!」などと部下が勘違いしても仕方ありません。これでは部下は本来の力を発揮できなくて当然です。
ルーチン業務でベテランぞろいの職場であれば、このような状況でも業績はあがるかもしれませんが、多くの職場では業績も部下の成長もあまり期待できないと思います。
宋文洲氏は、「日本の管理職の変なこと」を著書でいくつか指摘していますが、そのひとつとして「部下に何をやってほしいかということを明確にしていない」、「明確な指示をしていないのに『自分勝手なことをするな』と文句をつける」ことをあげています。
少し長くなりましたが、ギルバートは「人のパフォーマンスが低いときの原因は大半がこの上司の期待成果にある」と指摘しています。
よくある原因の2つ目は、職場で使う機器・ツール・システムなど仕事に必要な資源に不備があるときです。
今の職場に当てはめると、社内の情報システムやナレッジマネジメントのシステムはあるものの、現場の声が反映されていないため、非常に使い勝手が悪かったり、ほしい情報がなかったりで、あまり活用されず、生産性が高まらないというような状況でしょう。また、パソコンやソフトのバージョンが少し古いため、何をやるにしても時間がかかり、おまけに仕事の手順は人によってバラバラというような状態です。
仮にこうした職場環境であれば、たとえ優秀な人でも生産性は低くなるでしょう。
よくある原因の3つ目は、インセンティブがうまく機能していないときです。
高い業績を上げた人と大幅に目標未達成だった人との間で給与や賞与の差があまりつかない状況です。また、休日出勤するなど苦労してやっと高い目標を達成した人に対し、休みも与えず、さらに大きな課題を与えるといった状況でしょう。そして、いくら成果をあげても昇進・昇格に影響はなく、表彰や記念品や旅行などが与えられることもありません。わずかな給料の差だけで報いる仕組みになっています。
言うまでもありませんが、これでは励みになるものがほとんどなく、誰も「いっちょやったるか!」という気にならないでしょう。
よくある原因の4つ目は、仕事に必要な知識・スキルが不足しているときです。
職場での研修や勉強会は部長の思いつきで場当たり的に行われ、社内の課長や主任が講師をしている、という状況でしょう。そして、講師をする課長・主任はトレーナーに必要なスキルや知識を学んでいないため、ほとんど一方的な講義をするという感じです。その内容は、部下からすると少し難しすぎたり、本当に仕事に必要な知識・スキルとは違っていたりする、という状態です。
このような研修や勉強会では、おそらく部下は本当に必要な知識・スキルが得られず、本来の力は発揮できないと思われます。
よくある原因の5つ目は、仕事に必要な基礎的な能力が従業員に不足しているときです。
さまざまな状況が考えられますが、もともと本人の基礎的な能力や性格では荷が重い仕事を任せているような状態です。また、組立作業でミスの起きやすい時間帯を考慮したり、小さな精密部品を扱うときにはルーペを与えたりする、といった能力を最大限に発揮させる工夫を何もしていない状況です。
もともと本人にポテンシャルがあり、あえて少し難しいテーマに挑戦させて一皮向けることをねらうのであれば話は別ですが、仕事に必要な要件と部下の性格や能力とのバランスがとれていなければ、本来の力は発揮できない場合が多いでしょう。
よくある原因の6つ目は、部下の動機が高まっていないときです。
やっている仕事にほとんど将来性が感じられず、仕方なくやっているような状況です。または、非常にストレスの高い状況で、励みになるようなインセンティブもなく、上司はガンガン檄を飛ばしているだけという状況でしょう。このような状況では、部下のやる気を期待する方が「虫がよすぎる」と思います。
以上は、どれも「人が本来の力を発揮できないとき」のよくある原因として典型的な内容だと思います。ひょっとすると、このうちのいくつかをみなさんは経験されているのではないでしょうか?
実際は、これらの複数の要因が絡み合ってパフォーマンスが低くなる場合が多いでしょう。また、上記以外の要因が原因という場合もあるでしょう。
ラインのマネジャーであれ、人材開発担当であれ、パフォーマンスを改善するためには、このような原因をきちんと把握することが必要になります。
しかし、多くの場合はこれらの原因を分析しないまま様々な研修が実行されています。もし、パフォーマンスが低い原因が知識やスキルではなく、上司のマネジメントや業務の手順などであれば、多額な研修を実施して効果がなくてもある意味当然と言えるでしょう。
経営幹部と一緒にパフォーマンスが低い原因を突き止め、研修だけでなく職場への打ち手も提案する人材開発担当は、パフォーマンス・コンサルタント、ビジネスパートナーと呼ばれ、この役割の重要度はますます高まっています。
パフォーマンスとは?
パフォーマンスを改善するためには?-促進要因と阻害要因
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鹿野 尚登 (しかの ひさと)
1998年にパフォーマンス・コンサルティングに出会い、25年以上になります。
パフォーマンス・コンサルティングは、日本企業の人事・人材開発のみなさまに必ずお役に立つと確信しています。
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