パフォーマンス・コンサルティング

本のご紹介: Exemplary Performance (Jossey-Bass,2013)

2013.06.17

Paul H. Elliott and Alfred C. Folsom, Exemplary Performance:Driving Business results by Benchmarking Your Star Performers (Jossey-Bass, 2013)

行動エンジニアリングモデルの進化

Exemplary Performance, 2013

行動エンジニアリングモデルを現在の職場環境に合わせてアップデートしています。

パフォーマンス改善のモデル、事例がよくわかります。

優秀な人材の実務行動を緻密に分析し、業績の底上げをするプロセスがわかりやすく解説されています。

職場環境へのアプローチが中心です。

著者のポール・エリオット(Dr. Paul Elliott)さんとは、ロビンソン夫妻(Dana and James Robinson)とのご縁で2008年のASTDで初めて顔を合わせました。ロビンソン夫妻がエリオットさんの経営するExemplary Performance社にパフォーマンス・コンサルティングに関する知的財産権を売却し、セミリタイアするというので、それをお披露目する小さなバンケットが催されたのです。筆者はロビンソン夫妻に会えるのはこれが最後かもしれないと思い、場違いにもかかわらず、英語が堪能な友人と一緒に参加したというわけです。エリオットさんはHPIの分野では有名人ですが、それはあとでふれます。

 

本書のメッセージ

 

本書のメッセージは次のようなものだと思います。

  • 「優秀な人材=持って生まれた才能がある」という神話を信じ、数の限られたタレントの獲得や囲い込みに奔走する人事・人材開発を見直そう
  • 社内のスター従業員のパフォーマンス(Exemplary Performance)の中にある暗黙知やノウハウ、それらを促進・阻害している職場の要因を明らかにし、ふつうの従業員にもまねできるようにすることで、組織業績を高めよう

 

ひとつ目の主張は、どの会社も優秀な「タレント」を潤沢に採用できるはずはないので、冷静に考えれば当たり前という気がします。ふたつ目の主張はパフォーマンス・コンサルティングと全く同じです。目指すところは同じですが、そこに至るアプローチがロビンソン夫妻と少し違います。

 

ロビンソン夫妻との違いを敢えて言えば、次の3点が違うと思います。


ひとつはスター従業員のパフォーマンスを整理するときのモデルです。ロビンソン夫妻はパフォーマンスモデル、コンピテンシーモデル、プロセスモデルの3つを状況に応じて活用することを提案しています(『パフォーマンス・コンサルティングⅡ』2010)。一方、エリオットさんはProfile of Exemplary Performance(以下PEP)というモデルを提案しています。PEPはパフォーマンス改善のターゲットの職務の成果、その成果の基準、その成果を生むために行うことやタスク、そのタスクの基準、それらの促進・阻害要因を整理したものです。

 

ふたつ目はこのモデルをまとめるときの方法です。ロビンソン夫妻はインタビュー、文献、観察などを状況に応じて使うように勧めています。一方、エリオットさんは観察とインタビューの組み合わせを勧めています。本書を読んでいる限り、スター従業員の仕事ぶりをかなり細かく観察し、詳しく、精緻なインタビューをする印象です。

 

3つ目はターゲットの従業員のパフォーマンスが発揮されないときの原因を分析するモデルです。ロビンソン夫妻はギャップ解消モデル(Gap Zapper)を考案し、活用しています。一方、エリオットさんはExemplary Performance System(以下EPS)を考案し、活用しています。このEPSはT・ギルバートの行動エンジニアリングモデル(Behavior Engineering Model)がベースになっており、以下の6つの要因で構成されています。

  • 期待成果とフィードバック
  • 報酬・承認・賞罰
  • モチベーションと個人の思い
  • スキル・知識
  • 能力と職務の適応度合い
  • 職場の物理的な環境、様々な仕組み、資源

考え方は同じで、上記の6つの要因が十分であれば、ターゲット従業員は望ましいパフォーマンスを発揮し、不足していれば期待するパフォーマンスを発揮できないと考えます。また、これらの要因は職場のシステムとしてとらえるというところも同じです。この考え方はHPTの基本であり、共通するところです。

 

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本書の構成

 

本書は二部構成です。第一部は理論編というべき内容で、エリオットさんのモデルの原理とそれらを活用したパフォーマンス改善の進め方について、順を追って解説しています。余談ですが、本書の表紙は「Performance Curve(正規分布)を右側にずらす」というパフォーマンス改善の基本原理を象徴しています。

Part one: Defining the opportunity

1. The Value of Leveraging the Insights of your Stars
2. Prioritizing Performance Improvement Opportunities
3. Selecting Exemplary Teams and Individuals
4. Capturing the Experties of Your Stars
5. What Makes Them Tick? How Stars and Exemplary Teams Consistently Exceed Expectations

 

第二部は実践編ですが、対象の読者はラインマネジャーを意識しており、中間管理職としてEPSをどのように活用するのか、上述の6つの要因ごとに背景にある学術的な知見に少しふれながら、職場での実践例を紹介しています。

Part Two: Shifting the Performance Curve

6. Leading for Exceptional Results
7. You Get What You Expect and What You Inspect
8. Great Job! Rewards, Recognition, and Consequences
9. How to Succeed in Business by Really Trying: Motivation, Intentionallity, and Delberate Practice
10. Replicating Your Stars! Training and Performance Support
11. Getting Round Pegs in Round Holes: Selecting for Success
12. Creating Bareer-Free Work Systems

 

全体的には豊富な事例やエピソードを引きながら解説しているのでわかりやすいと思います。たとえば、第4章では、あるIT企業のコンペ勝率が高いグローバルセールスチームの話が出てきます。そのカギを握っているのは技術営業スペシャリストなのですが、彼女が提案するthe proof of conceptにその秘訣がありそうだということでインタビューしたところ、実は本人が気づいていないところにカギがあったというような話です。他にも著者二人のコンサルティング経験の中から興味深い事例が随所に出てきます。

 

個人的には第9章のDeliberate Practiceの考え方を日常業務の中にどう取り込むかという議論が興味深かったです。Deliberate Practiceは「熟慮を伴う練習」「工夫された練習」(金井壽宏・楠見孝『実践知』2012)、「よく考えられた練習」(松尾睦『経験からの学習』2006年)などと訳されています。本書で引用されている“Talent Is Overrated”(邦題『究極の鍛錬』2010年)もお勧めです。

Deliberate Practiceというと、イチローが試合後にグラブの手入れをしながら打席をふりかえるとか、松井が長島さんと一緒にバットの素振りを何度も繰り返したという逸話を思い浮かべます。僭越ですが、『究極の鍛錬』というより、『「才能」と言いすぎるな!−天才と呼ばれた人たちの練習方法』くらいの邦題だったら手に取りやすいかもしれないと思います。

本書は過去にHPI関連の本を読んでもの足りないと感じた方、ロビンソン夫妻以外のパフォーマンス改善のアプローチについて知りたいと思っている方にお勧めの本です。今年のASTDのBookstoreでは、Performance Improvementのコーナーで、本書(薄緑)とギルバートの“Human Competence”(黒と赤)がご覧のように並べて売られていました。

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                                                                                   ASTD 2013 Bookstore

著者について

 

最後に著者ふたりの補足をしておきます。冒頭にふれたように、エリオット(Dr. Paul H. Elliott)さんはHPIで有名です。ASTDのボードメンバー(1993~1995年)を務めたり、J.C.ロビンソンと一緒に、ASTDコンピテンシーモデル開発のHPIエキスパートパネルのメンバー(1995~1996年)を務めたりしています。かつて経営していたコンサルティング会社の名前はHuman Performance Technology(1995~2001年)でした。さらに、2004年のASTDコンピテンシーモデル開発の貢献者としてもロビンソン夫妻とともに名前があがっています。
HPT、HPIとパフォーマンス・コンサルティングの関係が知りたい方はこちらへ

エリオットさんはハーレス(Joe Harless)のFront End AnalysisやJob Aidの考え方を知ったときは「目から鱗」状態だったと書いています。エリオットさんにとって、ハーレスは言わば師匠のような存在のようです。そのハーレスはT・ギルバートの教え子だったので、「エリオットさんはギルバートの孫弟子ですね」と言ったことがあります。EPSが行動エンジニアリングモデルの影響を受けているのは言わば当然なわけです。

『HPIの基本』の著者、ウィルモア(Joe Willmore)さんは、ASTDのPodcastの中で「私にはHPIのヒーローが3人います。ひとりはギアリ・ラムラー(Geary Rummler)、ふたり目はロビンソン夫妻、3人目はポール・エリオットさんです」と言っていました。『HPIの基本』の中でもこの三者の名前が出てきます。

エリオットさんは、Micrsoft, P&G, FedEX, BellSouth, Ford Mortor, Boeing, BP Exploration & Production, Agilentなど、フォーチュン500の大手企業を中心にコンサルティングをしてきています。また、以下のような著作があります。

Identifying Performance and learning Gaps, The ASTD Handbook for Workplace learning Professionals (ASTD, 2008)
Asessment, Robinson and Robinson eds. Moving from Training to Peformance (ASTD, 1998)
Job Aids, Handbook of Human Performance Technology (ISPI, 1999)

 

フォルサム(Dr. Alfred C. Folsom)さんは、現在エリオットさんが経営するExemplary Performance社の副社長です。HPTの分野で25年以上の経験があり、最近は石油化学の企業で信頼性を高めたり、保守コストを低下させたりする取り組みを支援しています。また、人材開発部門が組織業績に貢献できるように部門の変革を推進したり、人材開発スタッフがSBPやパフォーマンスコンサルタントの役割を果たせるように育成したりすることを支援しています。その他、ソフトウェア、保険、ヘルスケア等の業界での支援実績があります。

前職はUS Coast Guardのヘッドクォーターで、Chief of the Office of Training, Workforce Performance and Developmentを務めていました。具体的には、6つのトレーニングセンター、2つのトレーニング支援部隊で行うトレーニングプログラムを統括し、年間2万4000人を超える隊員の訓練に貢献していました。

US Coast GuardはHPTの取り組みに熱心なことで有名です。ISPIのカンファレンスでは毎年のように何らかの賞を受賞しています。フォルサムさんが責任者だった 3つのスクールでもISPI Award of Excellence for Outstanding Instructional Productを受賞しています(2004-2005)。フォルサムさんはヨークタウンのPerformance Technology Centerの立ち上げメンバーの一人でもあったようです。

もし、ご関心があればぜひ手に取っていただければと思います。

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代表者プロフィール

鹿野 尚登 (しかの ひさと)

1998年にパフォーマンス・コンサルティングに出会い、25年以上になります。
パフォーマンス・コンサルティングは、日本企業の人事・人材開発のみなさまに必ずお役に立つと確信しています。

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