パフォーマンス・コンサルティング

ASTD 2009 報告-①パフォーマンス・コンサルティング事例

2009.07.18

2009年のASTDカンファレンスでは、3社のパフォーマンス・コンサルティングの実践事例が紹介されていました。

3社とは医薬のジェネンテック(Genentech)、PwC(PricewaterhouseCoopers)、デルファイ(Delphi)です。このうちジェネンテックとPwCのセッションに参加しました。

 

1.Genentech(医薬)
SU101 - From Learning to Performance Consulting in a Regulated Environment: A Genentech Experience

 

このセッションは、『パフォーマンス・コンサルティング』の著者、デイナ・G・ロビンソンとジェネンテックのコノリー氏の二人でプレゼンをしていました。

ジェネンテックの事例は、テクニカル教育部門の組織や役割の見直しを行い、そのコンセプトにパフォーマンス・コンサルティングの考え方を取り入れ、現在実践中というものです。

具体的には、世界で8つの研修グループを統合し、職務や役割を再設計してクライアントマネジャー(社内パフォーマンス・コンサルタントの役割を果たす)を置き、パフォーマンス・コンサルティングを実践している、という発表でした。

ジェネンテックで実践しているパフォーマンス・コンサルティングのアプローチとは、以下の5つのことです。

  1. 学習ソリューションではなく、成果(事業、パフォーマンス)を志向すること。
  2. クライアントと話し合うときに、最初はソリューションの先入観を持たない。
  3. 学習部門の内外のソリューションを組み合わせる。
  4. クライアントと成果責任を共有。
  5. 定期的に現状分析(ギャップの明確化、原因特定、事業の影響)をする。

また、何をどう変えようとしたのかをまとめたのが以下の表です。

 From

 To

御用聞き

ビジネスパートナー

様々な組織が独自のやり方で学習施策を提供

統合した組織で整合性と一貫性のあるアプローチで提供

品質レベルがバラバラ

一貫性のある品質とサービス

クライアントは学習部門が提供しているものの価値を知らない

クライアントは学習部門がどうやって付加価値をつけるのかよく理解している

行われている業務に冗長なところがある

より効率的、冗長な部分をなくす

クライアントから電話があったときはトレーニングが必要だという前提に立つ

クライアントの問い合わせに、コンサルティング的に対応、どのようなソリューションか先入観を持たずに対応する

 

この変革では、組織レベル、プロセスレベル、職務・パフォーマーレベルで以下のような手を打っていきました。

組織レベルでは、部門の役割を明確にし、8つの学習チームをマトリックス組織にして統合し、パフォーマンス・コンサルタント(Client Manager)を置いています。

プロセスレベルでは、学習部門の業務プロセスを以下のように設計し、各プロセスの担当者の役割、成果、成果指標を決めています。これを利用者であるクライアントにもわかるように広報しています。

Genentech.bmp

業員レベルでは、パフォーマンス・コンサルティングのアプローチを実践するために必要な能力を開発しています。特に、大事なコアスキルは「経営にかかわる知識、コンサルティングスキル、信頼関係構築スキル」の3つだと言っていました。

クライアントマネジャー(パフォーマンス・コンサルタント)チームのメンバーは、毎月のプロジェクトのレビューを行ったり、ロープレやピアコーチングを行ったりしたようです。クライアントとの打ち合わせには、事前に質問することを準備してから臨んだということでした。こうして必要な知識やスキル習得を促す職場環境をつくったのです。

2年間、以上のような取り組みをしてきて、2009年の春までには進歩し、クライアントのトレーニングの要求をプッシュバックできるようになってきたと言っていました。その過程で、以下の教訓を得たということでした。

  1. 一人ひとりの役割と成果責任を明確にすること。人はすぐに元の仕事の仕方に戻る
  2. 学習部門、HRの責任者を巻き込み、積極的に取り組んでもらうこと
  3. 戦略レベルの仕事をしようと思えば、戦術レベルの仕事を取り除き、ゆとりを残しておくこと
  4. すべての仕事が戦略レベルになるわけではない。戦術レベルの仕事も残る
  5. 戦術レベルの仕事をする上でも、戦略レベルのアプローチは利用できる
  6. 変革は旅のように続くものであり、「スイッチ」を切り替えるようにはいかない

以上の発表内容を一言で言えば、社内の人材開発部門をパフォーマンス改善部門に変えていった事例だと言えます。拙訳  『パフォーマンス・コンサルティング~人材開発部門は研修提供から成果創造にシフトする~』の第4部の内容の実践事例とも言えるでしょう。

 

2.PwC(PricewaterhouseCoopers)
SU321 - Improving results: A PricewaterhouseCoopers
Performance Consulting Case Study

 

PwCのLearning & Education部門 には世界で240名以上いるそうです。その中で、外部コンサルタントの力も借りながら6人のパフォーマンス・コンサルティングチームを立ち上げ、実践しているという事例でした。

以下はかなり大幅に要約していますが、大きくは以下のようなステップでパフォーマンス・コンサルティング進めていったということです。

 

Step1:準備・社内で支持を得る
ASTDのプログラムを受講したり、外部コンサルタントの力を借りたりしてHPIを学び、モデルやツールなどを自社用にカスタマイズしたようです。また、社内の市場性を調査、3カ年計画をつくったということでした。

さらに、パフォーマンス・コンサルティングについてバリューステイトメント(Value Statement)をつくり、提供するものの価値や進め方について、社内の学習部門の責任者に理解してもらったようです。そして、クライアントを見つけていったのです。

 

Step2:事業とパフォーマンスの現状分析
クライアントの担当事業のことをよく調べたうえで、1回目の打合せをし、パフォーマンス問題を定義します。その上で、マーケティング、財務、HR、サービスの利害関係者と打合せ、2回目の打合せでプロジェクトの目的やデータ収集の方法、分析結果の報告の仕方などを決めていきます。

 

Step3:原因分析
サーベイ、インタビュー、フォーカスグループなどを通じてデータを収集します。そして、パフォーマンス問題の核心的な原因5つ、そして、それらに対応する解決策(原因ひとつに対し、最低ふたつ)を明らかにして、関係者に報告をします。

この報告会の議論のあと、解決策を選択し、ソリューション開発チームをつくり、効果測定の仕方を検討していきます。

 

PwCの事例も社内でパフォーマンス・コンサルティングのチームを立ち上げ、実践しているというものでした。パフォーマンス・コンサルティングのプロセスで言うと主に前半のことを中心に説明していました。

 

3.Delphi(米、自動車部品)
W314 - Case Study: A Performance-Based Approach to
Transformational Change

 

このセッションには参加していません。以下はハンドアウトから概要を要約したものです。

パフォーマンス・コンサルティングのフレームを活用して、得意先に出荷する部品の品質改善の取り組みを支援したという事例です。もし、出荷した部品に問題があれば、次の取引はなくなるという厳しい状況だったようです。

そこで、パフォーマンス・コンサルティングのニーズの階層構造に則して4つのニーズを定義し、GAPS!マップを活用してターゲットの従業員(New Model Launch Manager)の現状を分析しています。

事業とパフォーマンスのギャップの原因を明らかにした後、リスクを減少させる業務プロセスの設計、さまざまなシステムをナビゲーションに利用、ジョブエイド、コーチングなどの解決策を開発したようです。

これらの解決策は、組織のアラインメント、プロジェクトおよびパフォーマンスマネジメント、チェンジマネジメントの3つの観点で設計されています。こうして、リスクを特定し、その優先順位づけを行い、それらを取り除いたり、軽減したりしていったのです。

 

ちなみに、当初クライアントから受けた要求は次のようなものでした。


「New Model Launch Manager向けの研修の開発を手伝ってほしい。彼らがチームを指導して品質リスクを減らしていけるように、2週間で学習させたい」

 

この要求を受けてリフレイミングのやり取りをして、次のような戦略レベルのニーズがあることがわかったのです。


「お客様は、デルファイ社のサプライチェーンのリスクを心配している。そこで、当社は潜在リスクを積極的に見つけ、すべてのリスクを評価し、断固とした対策を打ってきたことを実証する必要がある。Supplier Launch Managerは部門横断チームを指導してこの仕事をしてもらう」

 

この事例では業務プロセスや組織文化も視野に入れて組織変革を行っており、パフォーマンス・コンサルティングの考え方が多様な文脈で活用されていることがわかります。

 

→欧州・中東・アジアなど他の事例にも関心がある方は、コラムー海外の人材開発トレンド

 

ヒューマンパフォーマンスはパフォーマンス・コンサルティングを実践します。

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代表者プロフィール

鹿野 尚登 (しかの ひさと)

1998年にパフォーマンス・コンサルティングに出会い、25年以上になります。
パフォーマンス・コンサルティングは、日本企業の人事・人材開発のみなさまに必ずお役に立つと確信しています。

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