パフォーマンス・コンサルティング

研修成果を高めるために−③仕事の進め方を変えよう

2011.4.9

ここまで、研修成果を高めるには、「研修をすれば望ましい行動に変わる」という楽観的な前提を変え、最初の設計段階で研修成果を定義することが必要だと述べました。そして、研修成果を示すには、事業戦略と研修の連動性を明らかにし、研修後、現場で見たり、聞いたりしてわかる基準を決めることが重要だと強調しました。

このような考え方を実践しようと思えば、おそらく、従来の人材開発とは違う仕事の進め方をすることになるでしょう。

基本プロセス.bmp

最初に、本当に研修が最適な解決策なのか、判断する

 

結論を先に言えば、研修の企画開発を議論する前に、本当に研修が最適な解決策なのか、判断するプロセスを入れましょう、ということです。

その結果、研修が適切だと判断できれば、次に進み、研修の設計段階で成果を定義するのです。そして、研修の開発、実施、効果測定というおなじみの流れになるわけです。

 

話を進める前に、現在、貴社で行われている人材開発部門の仕事の進め方を少し考えてみてください。人材開発にかかわる施策を設計するときに、最初に何に取り組んでいるでしょうか?そもそも人材開発部門として、明確な仕事のプロセスや進め方が確立されているでしょうか?何らかのキーワードが決まったら、いきなり「評判のよい研修」「過去にない研修」「最新の技法」といった「よい研修探し」の議論が始まっていないでしょうか?

 

余談ですが、Performance Consulting second editionの第3章の冒頭に次の一コマ漫画が掲載されています(拙訳『パフォーマンス・コンサルティングⅡ』では割愛)。この漫画では、何やら難しそうな数式が並んでいますが、その2番目のステップで「奇跡が起こる」と書かれています。そして、先生らしき人が「2番目のステップのここをもっと明確にすべきだと思うよ」と言っています。つまり、プロセスやロジックがあいまいなのに、立派な答えを書いている矛盾を指摘しているわけです。何が言いたいのかはお察しいただけると思います。

 

では、なぜ研修が適切な解決策かどうか、最初に判断しなければならないのでしょう?それは、そもそも取り組もうとしている問題が研修で解決しないものであれば、いくらすばらしい講師でよい研修をしても成果は限られるからです。

 

これに関連して、もうひとつ余談を続けますと、インストラクショナル・システムズ・デザイン(ISD)で有名なロバート・メイガーは、「解決策と問題の関係は、カギと錠のようなもので、解決策を間違えると問題は解決しない」という趣旨のことを言っています(邦題『業務遂行上の問題分析』)。

 

このシリーズの①で述べたように、従業員のパフォーマンス(実務行動)に影響を及ぼしている要因はたくさんあります。

問題の原因が「従業員の知識やスキルの不足」だと特定できれば、研修が適切な解決策になります。しかし、メイガーの言うように、上司の指導不足、そもそも期待成果があいまい、評価指標と業績指標が一致していない、などといった職場環境が本当の原因であれば、研修では解決できないでしょう。

 

この見極めをするためには、次のような問いに答えることが必要です。

 

  • そもそも研修企画の前提にある事業目標、業績指標は何か?
  • 事業目標に掲げている業績指標の現状はどうか?
  • 事業目標を達成するために、ターゲットの従業員には、どのようなパフォーマンス(実務行動)が求められるのか?
  • ターゲット従業員のパフォーマンス(実務行動)の現状はどうか?
  • これらのギャップの原因は何か?

 

こうした問いに答えるためには、事業計画を調べたり、経営幹部や高業績者などにインタビューしたり、ふつうの従業員にアンケートをとったりして、事実を把握することになります。

 

逆に言えば、この手間暇をかけないということは、「事業目標の達成に役立つ従業員のパフォーマンス」や「従業員のパフォーマンスが低い原因」を明確にしないまま、高い研修成果を得ようとしていることになります。

 

人材開発担当の仕事の流れ

研修が適切な解決策であれば、次は研修の設計

 

このプロセスを経て、研修が適切な解決策とわかれば、次は研修の設計段階です。ここで、研修の成果を定義することになりますが、実質的には最初の工程で終わっています。というのは、先のプロセスで「事業目標の達成度合いをみる業績指標」「事業目標を達成するために、従業員に求められるパフォーマンス」を明らかにしており、このふたつは研修で目指す成果そのものだからです。

 

ここまで読んで「そんなことは既にやっている」とおっしゃる方は、次の問いをご確認ください。

 

  • 従業員に求められるパフォーマンスとして定義したものは、具体的な実務行動か?
  • それらのパフォーマンスが事業目標の達成に役立つという根拠を示せるか?
  • 定義したパフォーマンスはラインの管理職や従業員から見て、納得感があるか?

 

上記の問いに「Yes」と答えることができれば、あとはおなじみの研修開発・実行となります。とはいえ、よくある研修の設計開発とは少し違うものになるかもしれません。なぜなら、研修の焦点が事業目標の達成に役立つパフォーマンス(実務行動)に絞られるからです。

 

同様に、効果測定もよくある研修アンケートをとっておしまい、ということではありません。研修の成果として最初に定義したことを実現できたかどうか、検証することが焦点になります。

 

研修効果を高めるために、受講者の上司による事前の動機づけや受講後のフォローをセットするという話はよく聞きますが、その前提には「研修ありき」の発想があるような気がします。

 

研修という解決策を選ぶ前段階で、先に述べたようなインタビューや分析をしていれば、おそらくラインマネジャーの関心も高まるでしょう。さらに言えば、このような取り組みをする人材開発部門に対し、ラインマネジャーの期待も徐々に変わってくるのではないでしょうか?

 

パフォーマンス・コンサルティングでは、人材開発を通じて成果を高めるためのプロセスが明確に定義されています。また、各プロセスの成果物やそれらをまとめるための分析モデル、インタビューのコツなどが整理されています。

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代表者プロフィール

鹿野 尚登 (しかの ひさと)

1998年にパフォーマンス・コンサルティングに出会い、25年以上になります。
パフォーマンス・コンサルティングは、日本企業の人事・人材開発のみなさまに必ずお役に立つと確信しています。

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