2018.1227
●まとめ
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お勧めしたい本を紹介する前に、ちょっと現状の人材開発をふりかえってみましょう。
お急ぎの方は、「3.人材開発の仕事を見直す本と動画」へどうぞ。
次の7項目のうち、あなたの職場はいくつあてはまるでしょうか?
いくつか該当する項目があった方は、「図表2.よくある人材開発担当の仕事の流れ」に近い状態ではないでしょうか?特に、上流の経営幹部へのヒアリングや研修教材の開発の段階では、基本的な知識・スキルがないと上記のパターンに陥りがちです。
この仕事の流れの根底には「よい研修を探してきて実施する」という発想があり、既に限界がきているのかもしれません。
少し前置きが長くなりますが、今後の人材開発につなげるための話をもう少し続けます。というのも、以下のポイントをおさえずに「要は評判のよい研修をたくさん実施する」という考え方の本をいくら読んでも役に立たないと思うからです。
今は、不透明な外部環境の中でA/Bテストのような実験を繰り返し、仮説検証して「いけそう」となったら一気にスケーリングするといった事業運営になってきました。人材開発担当が事業成果に貢献しようと思えば、幹部からのオーダーを待つだけでは遅いでしょう。
人材開発担当は今まで以上に上流で経営幹部へのパートナリングをし、問題を構造化して解決策を提案することが重要になっている気がします。端的に言えば、図表3のような仕事の流れです。
それでは、「図表2.よくある人材開発担当の仕事の流れ」と「図表3.事業成果にこだわる人材開発担当の仕事の流れ」の違いを中心に、ざっと見ていきましょう。
まずは、経営幹部から相談されたときに「事業をよく知っているな」と言われるような質問ができることが大事だと思います。たとえば、次のような質問です。
例1、例2とも即答するのは難しい質問です。むしろ「簡単に答がわかれば苦労はしない」というレベルの問いです。とはいえ、これらは重要な問いであり、経営幹部はおそらく触発される部分があるでしょう。そこで外部や自社の現場を調べ、こうした問いの答を見つけることに人材開発担当の価値があると思います。
最も重要なことは、こうした質問を丸暗記することではなく、事業特性やその場の状況に合わせて臨機応変に経営幹部に質問できることだと思います。逆にそのレベルにならなければ、経営幹部に一目置かれることはないでしょう。ロビンソン夫妻もマッコードさんもこの質問を考え出すのに数年に及んで試行錯誤したといった趣旨のことを述べています。
次に、経営幹部に問いかけ、内外を調べた結果をわかりやすく整理して伝えることが必要です。ここでは、パフォーマンス・コンサルティングのGAPS!マップなどのフレームやツールを活用して、従業員のパフォーマンス(実務行動)に影響する要因を図解すると便利です。そして、次のようなポイントを経営幹部に示し、必要な解決策についての合意を得るのです。
ここで大事なことは、研修だけでは解決できない現状を一目でわかるように図解することです。
上流の「経営へのパートナリング」と「問題の構造化」は、パフォーマンス・コンサルティングの考え方やツールがとても役に立つと思います。
経営から頼りにされるようになるためのふたつ目のポイントは、人材開発・組織開発の専門知識をもとに成果の出る解決策を提案できることです。
パフォーマンス・コンサルタントとしては、ふたつの領域の能力が必要だ。それは、「事業にかかわる深い知識」及び「HR、学習、組織開発の手法にかかわる専門知識」である。 ロビンソン&ロビンソン『パフォーマンス・コンサルティングⅡ』2010年 |
現状の問題を構造化して、経営幹部と解決策の合意に至り、学習施策をつくることになったとしましょう。言うまでもなく、学習施策には講師が実施するもの、e-ラーニングなど、いろいろあります。
次は、単に研修の設計開発だけではなく、「+α」も同時に設計開発することになります。具体的には以下のようなイメージです。
こうした仕事の進め方をするためには、パフォーマンス・コンサルティング、インストラクショナルデザイン、研修転移、研修効果測定、組織開発などの基本的な知識が必須になります。
こうした知見をもとに設計した「研修」や「+αの取り組み」の品質は、おそらく従来とは変わるでしょう。それは、経営幹部だけでなく、関係者にも伝わるはずです。
ひょっとすると、なぜここで研修効果測定の話が出てくるのかと思う人がいるかもしれません。実は、サクセスケースメソッドやカークパトリックの新4レベルの内容のかなりの部分は、設計段階でやるべきことを解説しています。
「これは面倒だな」「何か難しそうだな」と感じるかもしれませんが、新しいインプットをしない限り、今のアウトプットは変わりません。現在、自他共に事業に十分貢献していると自負されている方は何も変える必要はありません。もし、そうでなければこれを機に少し勉強する方がよいかもしれません。
研修実施は社内講師でやるにせよ、社外講師でやるにせよ、次のようなことをおさえることが職場での実践につながります。
また、研修後に研修転移を促進するためには、学習する内容や職場の状況に合わせて次のようなことが必要です。
研修転移も何やら手がかかりそうですが、成り行き任せでは学習したことを活用する人は増えません。研修転移も研修実施と同様に意図を持って行わなければ、いつまでも改善されないでしょう。
これまでみてきたように、上流で経営幹部と目指す成果をしっかり握り、設計段階から周到に「研修+α」を設計開発すれば、この時点で経営幹部にとって重要な行動が学習され、職場で活用されるようになっているはずです。最後の効果測定では、経営幹部が知りたいこと、「どこまで実現できたのか」を測定するだけです。
もしかすると、研修成果報告の内容に研修直後アンケートはないかもしれません。たとえば、業績の先行指標の変化、1ヵ月後の重点行動の実践度、成功例・失敗例のインタビューのまとめ、実践を促す促進・阻害要因、参加者が職場で活用したときの動画や写真、上司のコメントなどといった感じです。
以下は、これまでざっと見てきた内容の元ネタの人材開発の本、動画情報です。英語文献はどれもグローバルイングリッシュを意識して書かれており、わかりやすいと思います。ぜひ、気になったものからトライしてみてください。
ご質問やご意見があったらお気軽にお問合せください。
パフォーマンス・コンサルティングⅡ
研修効果にこだわる人事・人材開発スタッフには、おすすめの一冊。人材開発部のビジネス志向を高めるための具体的なフレームを整理した本です。
人材開発の上流で役立つ情報が満載です。
Netflixの最強人事戦略、2018
上記で少し紹介しましたが、Netflixの「1年で10倍の成長」といったスケーリングするときの経営幹部への問いかけがとても参考になると思います。
「採用担当も顧客のために仕事をする」と言い切るところはしびれます。
1分間問題解決、2002
パフォーマンス・コンサルティングのエッセンスを2時間程度で、小説仕立てで学ぶという本です。パートナリングのイメージがよくわかります。
2002年出版で「パフォーマンス改善」の概念がなく、書名に反映されていません。
Exemplary Performance, 2013
パフォーマンス改善のモデル、事例がよくわかります。優秀な人材の実務行動を緻密に分析し、業績の底上げをするプロセスがとてもわかりやすく解説されています。職場環境へのアプローチが中心です。
Design for How People Learn, 2016
Amazon.comでInstructional Designと検索するとトップで登場、専門書ですがレビューが900件以上あります。
「楽しい」というコメントが続出です。イラストや写真が多く、本当にありがたい本です。初版は韓国語訳あり。
Developing Technical Training, 2008
インストラクショナルデザインの「実務」を具体的に解説している本です。第3版で、版を重ねている理由がわかります。
この本も写真やイラストが多く、教材作成の見本と言える本です。理解促進の練習問題があります。
教材設計マニュアル、2002
おなじみ熊本大学大学院の鈴木先生のインストラクショナルデザイン(ID)の教科書。
IDの知見を反映した教材作成の基本が解説されています。
「魚釣りの教材」をつくる練習問題を実際にやりながら理解が深まります。
研修設計マニュアル、2015
熊本大学大学院の鈴木先生のインストラクショナルデザイン(ID)の教科書。
研修設計の教科書として、「学習目標→コンテンツ→練習問題→解説」の見本が示されています。
IDの知見をどう活用するか解説されています。
The Six Disciplines of Breakthrough Learning, 2015
「研修転移」の教科書。上流から効果測定までを6つの原則(6Ds)で解説。
研修設計と同時に転移設計を行い、研修の前後に職場で行う具体的なヒントが多数詰まっています。中国語訳あり。
The Field Guide to the 6Ds, 2014
「研修転移」の実践ガイド。
何と言っても43の実践事例はとても多くのヒントがあります。
北米・南米・東南アジア・オセアニア・インド・中東と各国での実務家の実践例はとても参考になります。
The Success Case Method, 2003
サクセス・ケース・メソッド3部作の第1弾。
簡単な5項目程度のアンケートと職場での成功事例インタビューで、経営幹部の疑問に答えるというコンセプトです。
定性的なアプローチとしてぜひルーチンにしたい方法です。
Telling Training’s Story, 2006
サクセス・ケース・メソッド3部作の第2弾です。
上流でのインパクトモデルの作成、成功事例インタビューのコツなどがより詳しく解説されています。
また、Compaqなどの実践事例が具体的なイメージを喚起してくれます。
Courageous Training, 2008
サクセス・ケース・メソッド3部作の第3弾です。
実践事例が多く紹介されています。
「研修成果は組織全体の責任」、High Impact Learningというコンセプトは、研修転移、組織開発的な考え方を感じます。
Kirkpatrick’s Four Levels of Training Evaluation, 2016
カークパトリックの新4レベル。
学習とパフォーマンス改善をパッケージにしたモデルで新4レベルを丁寧に解説。
Emiratesの上流でのKPIと重点行動の設計、職場でのモニタリング、行動化促進策など、ヒントが多いです。
企業内学習入門、2014
原書はThe Business of Corporate Learningで、効果測定の内容だけではありませんが、新4レベルやROIを冷静に評価しています。
人材開発全体を俯瞰しながら考えるうえで、とても有益な内容が網羅されています。
経営幹部への パートナリング-動画1 | ATD Webcast: Dana Gaines Robinson(会員のみ) Performance Consulting: What It Is and How to Get Started, 2018 |
経営幹部への パートナリング-動画2 | Patty McCord Goal Summit 2016: Challenging Everything You Know About HR |
研修+αの設計開発 -動画1 | 熊本大学大学院 鈴木克明教授 東北大学講演 インストラクショナルデザインへの誘い |
研修+αの設計開発 -動画2 | ATD Webcast(会員のみ) Ensuring Learning Transfer: an Introduction to The 6Ds, 2013 |
研修効果測定-動画1 | ATD Webcast(会員のみ) Kirkpatrick’s Four Levels of Training Evaluation |
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ヒューマンパフォーマンスはパフォーマンス・コンサルティングを実践します。
人にかかわる施策、人材開発と事業戦略の連動性を高め、業績向上に貢献することがテーマです。研修効果で悩んだことがある方には有効なフレームワークです。人材開発のあり方や研修の見直しを検討されている人材開発担当の方におすすめです。
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鹿野 尚登 (しかの ひさと)
1998年にパフォーマンス・コンサルティングに出会い、25年以上になります。
パフォーマンス・コンサルティングは、日本企業の人事・人材開発のみなさまに必ずお役に立つと確信しています。
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