Performance Consultingは1995年、2008年、2015年と3版あり、版を追って少しずう進化しています。
下記の図表1を見ていただくと、その進化ぶりが少しおわかりいただけると思います。
パフォーマンス・コンサルティング3.0
1995年初版
2008年第2版
2015年第3版
最新の第3版は、『パフォーマンス・コンサルティング-人と組織にアプローチする戦略的なプロセスにより、組織業績を高め、効果を測定し、持続させる』という感じです。
第2版がベースですが、パフォーマンス・コンサルティングの定義、プロセス、主要なモデルなどが微修正されており、実践事例がほぼ一新されました。この実践事例については、1995年の初版からロビンソン夫妻と親交のあるHandshawさんが実際に取り組んだ事例を非常にわかりやすくまとめています。
構成は最初に基本モデルを紹介し、その後は4フェーズ9ステップの実践プロセスにそって時系列に解説する形となっています。大雑把に言えば、前半2/3がパフォーマンス・コンサルティング、後半1/3がROIの内容です。つまり、第2版まではパフォーマンス現状分析中心の内容でしたが、第3版はパフォーマンス・コンサルティングのきっかけをつかむところからソリューション実施後の効果測定までを一冊にまとめたと言えるでしょう。
第2版の読者がこの第3版を読まれると、「パフォーマンス現状分析がコンパクトにまとまり、すっきりした」「モデルが微修正されて、HRやODの関係者にも使いやすくなった」「実践事例が一新され、より具体的なイメージが湧くようになった」「ROIを代表とする効果測定はパフォーマンス現状分析から始まると再認識した」といった感想をもたれるような気がします。
パフォーマンス・コンサルティングⅡ
研修効果にこだわる人事・人材開発スタッフには、おすすめの一冊。人材開発部のビジネス志向を高めるための具体的なフレームを整理した本です。
人材開発の上流で役立つ情報が満載です。
初版と第2版だけを対比させると下記のような感じです。
ニーズの階層構造、GAPS!マップ、ギャップ解消モデル、リフレーミングのスキルなど、多くのコツを事例を交えて丁寧に解説しています。人材開発の実務に役立つコンテンツは第2版が最も充実していると思います。
| 初版 1995年 | 第2版 2008年 |
用語の定義 | パフォーマンス・コンサルティングの明確な定義がなかった 同義の言い換えが不明 | パフォーマンス・コンサルティングを明確に定義している 同義の用語も整理 |
HR・学習部門の業務の捉え方 | なかった | 戦略レベル、戦術レベル、事務処理レベル |
パフォーマンス・コンサルタントの役割 | 第1~2章で必要性と主な役割を解説 | 章立てした記述はない。全体の中で解説 |
パフォーマンス改善部門への移行 | ミッション例、移行にあたり議論すること、そのための素材を提供 | よくある質問で少しふれただけ |
ニーズの捉え方 | 4つのニーズ | ニーズの階層構造 |
現状分析ツール | パフォーマンス相互関係マップ | GAPS! マップ |
原因分析モデル | なかった | The Gap Zapper |
ソリューションの選択 | なかった | 基本的なガイドラインを示した |
クライアントの種別 | 明確にはなかった | プロジェクト限定クライアントと、継続的支援するクライアント |
クライアントへの対応 | 明確にはなかった | ACTモデル |
インタビューをするときのロジック | Should-Is-Cause | GAPS!ロジック |
クライアントに対する質問の例示 | 各ステップで質問を例示、体系的な整理に欠ける 事業ニーズ、ハイパフォーマーに対するインタビューガイドあり | 影響力が強い質問、切り出しの質問など整理 インタビューガイドはない |
事例 | ガソ石油の事例が中心 パフォーマンスモデルをつくる事例に1章割いている | 保守、金融、コールセンターなど8事例、パフォーマンスモデルの詳細な事例はない |
関心のある方は第2版(拙訳『パフォーマンス・コンサルティングⅡ』)を読んでいただくのが一番ですが、第2版で解説しているモデルやツールの原型が解説されている『ZAP THE GAPS! 』(邦題『1分間問題解決』)、『Strategic Business Partner』を参照されることもお勧めです。
『パフォーマンス・コンサルティング(初版)』1995年に出版されて以降、世界のHRD業界に大きなインパクトをもたらしました。
たとえば、SHRM (the Society of Human Resource Management)はこの本を’95年のthe book of the yearに選び、DDI社(米国HRD業界最大手の1社、ヒューマンアセスメントの第一人者)のCEOウィリアム・バイアム氏はこの本を「2000年以降もHRDやトレーニングの専門家として仕事をしようと思う人の必読書だ」とコメントしました。
その後も波紋は世界的に広がり、スペイン語、アラビア語、中国語、日本語に翻訳され、今や米国ではNew Classicと呼ばれ、大学のテキストとして使われています。
ASTDは本書を含めたロビンソン両氏の業績を高く評価し、「Distinguished Contribution to Workplace Learning and Performance」という賞を贈りました。また、ISA(トレーニング会社トップのネットワーク)は「Thought Leadership Award」を贈っています。
その後、パフォーマンス・コンサルティングの考え方は広く応用され、Performance Improvement, HPI(Human Performance Improvement)と言われたりしています。ASTDの国際カンファレンスでは、2000年前後からPerformance Improvementというセッショントラックで、パフォーマンス・コンサルティングやHPIに関連するモデルや実践事例が毎年発表されています。
また、ISPIは2002年頃から実践家に対し、CPT(Certified Performance Technologist)という資格認定を始めていますが、その判定基準としてパフォーマンス・コンサルティングやHPTの考え方に基づくプロジェクト実績が重視されています。
2008年に出版された『Performance Consulting second edition』の「はじめに」によると、この考え方はHRDやラーニング部門の専門家に限らず、HRやODの専門家にも広く活用されているようです。ちなみに、この第2版の出版はSHRMが後援しているようです。
2015年にはROIのPhillips夫妻らとの共著『Performance Consulting third edition』が出版されています。
現在では人材開発関係者であれば必ず読む「L&Dの古典」という扱いになっていると思います。
最近の海外の事例が知りたい方はこちらへをご参照ください。
-A T D 2015報告-パフォーマンス・コンサルティング 3.0
-ASTD 2014報告-パフォーマンス・コンサルティング+インストラクショナルデザイン
-ASTD 2011報告-① 現代自動車のパフォーマンス・コンサルティング
-ASTD 2011報告-② アルコアの戦略人事(SBP)事例
-ASTD 2010報告-① パフォーマンス・コンサルティングの浸透
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フォーマンス・コンサルティングの考え方が浸透するにつれ、その概念も広がっています。ASTDではHPI(Human Performance Improvement)と言ったり、ISPIは古くからHPT(Human Performance Technology)と言っていたりするので、ややマニアックになりますが、少し整理しましょう。
時系列で見れば、「ISPIのHPT」→「ロビンソン夫妻のパフォーマンス・コンサルティング」→「ASTDのHPI」という流れのようです。
ISPI 1992年
1995年
ASTD 1999年
ISPIはHPTの研究と実践で有名なアカデミックな団体です。HPTの基本原理やモデルを開発したグル達は、このISPI(当時はNSPI)で多くの論文や著作を発表していますが、それらがパフォーマンス・コンサルティングとHPIの基盤となっています。
ISPIはHandbook of Human Performance Technologyを1992年に初版、1999年に第2版、2006年に第3版を出しており、2002年頃にHPTの原則を定義しています。ISPIではPerformance Technologyという用語は使いますが、これらのハンドブックのIndex にPIやHPIという用語はなく、ほとんど使わないようです。
ASTDのThe ASTD Training & Development Handbook(1995)第18章では、Marc RosenbergがHPTを解説しています。そして、同書のIndexではPI (Performance Improvement)という用語はありますが、HPIはありません。The ASTD Handbook of Training Design and Delivery(1999)でもIndexにHPIという用語は出てきませんが、26章“Leveraging Technology for Human Performance Improvement”の中でHPIのコアテクノロジーとしてHPTを紹介しています。
初版のPerformance Consultingが出版されたのが1995年ですが、ISPI・ASTDとも上記の1999年版のハンドブックでとりあげ、IndexにPerformance Consultingという用語を掲載しています。
同じく1999年に、ASTDはASTD Models for Human Performance Improvement (second edtion)を出しています。この本は、ASTD Expert Panel(1995~1999年)がHRDの専門家に必要な役割やコンピテンシーを調査研究し、まとめたものです。同書のHPIの定義の部分で、HPIはHuman Performance Enhancement、 Human Performance Engineering、 Human Performance Consultingと同義と言える、と述べています(P3)。最後の用語解説では、HPIとHPTそれぞれに対し、短い説明があります。
余談ですが、この本の「今後のトレンド」の部分では、「伝統的なトレーニングからパフォーマンスへのシフトが起きている」という趣旨の解説があり、1999年当時の雰囲気が少しわかります。このExpert Panelには『パフォーマンス・コンサルティング』の著者のひとり、ジェームス・C・ロビンソンの名前があります。
瑣末な補足ですが、上記でふれた1999年のASTDのExpert PanelにはISPIの重鎮だった人も名を連ねており、相互の団体が行き来をしながら発展させてきたことが覗えます。
ASTDが2008年に出版したハンドブックでは、このあたりの経緯を明確にしています。(Joe Willmoe, The Evolution of Human Performance Improvement, 2008. ASTD Handbook for Workplace Learning Professional, ASTD)。Joe Willmore氏のWebサイトでもほぼ同じ内容の論文が読めます。
この論文を思い切って要約すると、以下のような発展をしてきたと言えそうです。
1978年(写真は復刻版)
G. Rummler 1995年
ASTD 2008年
HPTの勃興期: | 1950~ 1960年代前半 | ギルバート、ラムラーなどの研究が始まった。 |
HPTの確立期: | 1960年代半~ | ギルバートとラムラーのコンサルティング活動、メイガーの著作などを通じ、HPTの基本原理が確立される。 |
HPTの発展期: | 1970年代半~ | ギルバート、ラムラー、ハーレス、そしてロビンソン夫妻の主要著作が出版される。 |
Performance | 1990年代半~ | ISPIはCPT、ASTDはCPLPの資格認定を始める。ISPI ・ASTDともに関連するワークショップを開始。 |
ウィルモア氏は、HPTの発展期(1970年代半~1990年代半)の4者の著作や記事によりHPTがひとつの領域として認知され、ロビンソン夫妻の『パフォーマンス・コンサルティング』により、パフォーマンス・コンサルタントと名乗る人が増えたと述べています。
そして、1990年代後半、ASTDはこの領域をHPIと言った方が潜在的なクライアントである経営幹部にはわかりやすいと判断し、HPIと言い始めたと述べています。つまり、HPIはASTDがコンセプトの普及を考えて、HPT、パフォーマンス・コンサルティングの領域を言い変えたのが始まりのようです。詳しいことはわかりませんが、グローバル化を始め、高まる業績圧力など、様々な構造的な変化が背景にあったと思われます。
ちなみに、ロビンソン夫妻は、著書の中でパフォーマンス・コンサルティング、HPT、HPI、Human Performance Enhancement、Performance Engineeringは同じ領域のものだと認めています(Performance Consulting 2008、拙訳『パフォーマンス・コンサルティングⅡ』、P17)。
以下は私見です。
2000年以降、ISPIは脈々と続くHPTを再定義し、資格認定をASTDより先に始め、ハンドブックの出版をするなど、従来通りHPTにかかわる活動を続けています。ロビンソン夫妻も2000年以降で3冊の本を出版し、パフォーマンス・コンサルティングを進化させ、HRやODの専門家にも活用されるようになりました。ASTDはHPIという名前で独自のプロセスモデルや分析ツールを発表し、資格認定やワークショップを始めました。ということで、HPTを源流とする大きなパフォーマンスの流れの中には、よくみると複数の流れがあるように思います。
HPIもパフォーマンス・コンサルティングも遡ればギルバートやラムラーなどHPTのグルたちに辿りつくので、基本的な考え方は同じです。とはいえ、そこで終わるとどこが同じで、どこが違うのかわかりませんので、わかる範囲で整理してみました。HPIについては、具体的な分析モデルやツールを詳しく解説した書籍がまだなく、限られた情報しかありません。正確さを期すれば、ASTDのワークショップに参加した上でコメントすべきだと思いますが、そこまではできていません。その意味で、以下の比較は今わかる情報に基づいた暫定的なものです。予めご容赦ください。
2002年
Joe Willmore 2004年
第2版 2008年
<参考>
Handbook of Human Performance Technology 1992、1999、2006
Performance Consulting second edition 2008
(邦題『パフォーマンス・コンサルティングⅡ』2010年)
HPI Essential 2002
Performance Basics 2004(邦題 『HPIの基本』2011年)
微妙な違いは、分析プロセスの括り方やモデルの要素にあると思います。HPIでも『パフォーマンス・コンサルティングⅡ』のように、具体的な分析モデル、プロセス、分析ツール、原因分析、ソリューションの選択、インタビューのコツなどを一冊にまとめた本が出てくれば、もう少し見えてくるような気がします。
以上をまとめると、最近ではASTDのように比較的広義な意味合いで「パフォーマンス・コンサルティング」「HPI」を使うことが多くなっていると言えそうです。それだけ浸透してきたということですが、人によってイメージしている「パフォーマンス・コンサルティング」のプロセスや分析モデルが違うことも考えられるので、少し確認した方がよいかもしれません。
パフォーマンス・コンサルティングⅡ
研修効果にこだわる人事・人材開発スタッフには、おすすめの一冊。人材開発部のビジネス志向を高めるための具体的なフレームを整理した本です。
人材開発の上流で役立つ情報が満載です。
鹿野 尚登 (しかの ひさと)
1998年にパフォーマンス・コンサルティングに出会い、25年以上になります。
パフォーマンス・コンサルティングは、日本企業の人事・人材開発のみなさまに必ずお役に立つと確信しています。
代表者プロフィール
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