代表取締役 鹿野 尚登
「組織活性度調査って、本当に業績と相関あるの?」
「新任課長研修の効果を測定できないの?」
リクルートで営業をしていた頃、二人のお客様からこのような素朴で本質的な問いかけをされました。
ひとつ目の問いかけは1984年頃です。一瞬「相関がなかったらどうしよう?」と思ったのが正直なところです。このときは30営業所の業績データをいただき、深夜に電卓をたたいてG-P分析をしました。先行研究の結果から大丈夫だとは思っていましたが、無事、業績と調査結果に相関があることが確認できました。そのときの分析データに納得したお客様の顔は決して忘れられません。
それから10年が過ぎ、業績と人材開発サービスの相関を訊くふたつ目の問いに遭遇したわけです。残念ながら、こちらの質問には当時の知識では十分な回答ができませんでした。
「人材開発を通して、どのような業績貢献ができるのか?」
これが先のお客様のふたつの問いかけの根底にある問いだと思います。これはすべての人材開発関係者に突き付けられた問いかもしれませんが、その後もずっと消えることなく、いつも引っかかっていました。
バブルがはじけた1992年頃から研修がなかなか売れなくなりました。当時はリクルートでHRD事業の営業マネジャーをやっていましたので、それまでの提案の仕方、販促の仕方が全く通用しなくなったのを痛感しました。
これを機に大きく変えることが必要なのはわかりましたが、何をどのように変えるのかしばらく模索が続きました。
それから2~3年間はお客様のHRD(人材開発)課題について深く考えるようになりました。
具体的には、お客様の業界マクロの動向、中期的な経営戦略、経営課題、人員構成、過去の人事や組織に絡む施策などを業界本や有価証券報告書などで調べるようにしたのです。これらの情報をA3の用紙2枚にまとめていくと、構造的なHRD課題について仮説が立つようになりました。
お客様とのやり取りも、こうして自分で考えたHRD課題の仮説について議論するように変わりました。このような取り組みを繰り返しているうちに、様々なお客様に共通のHRD課題についても仮説が立つようになり、HRD課題別にパターン化した提案書をつくって提案するようになったのです。
こうして、調べること、お客様と話すこと、提案することの中身や質が大きく変わり、少しずつ業績が回復していきました。
新しい提案の仕方に手ごたえを感じていた1998年、ASTDでデイナ・G・ロビンソン氏のセッションに参加しました。
ここでパフォーマンス・コンサルティングを知ることになりました。
セッションの内容は、「これからの人材開発スタッフには、パフォーマンスコンサルタントという役割が必要になり、その要件を解説する」というものでした。英語はできませんが、何か大事なことを示されたような気がして、すぐにロビンソン氏の著書『Performance Consulting(first edition)』と『Moving from Training to Performance』を買いに走りました。
その年の夏休みに、無謀にもリクルートの仲間たちと『Performance Consulting(first edition)』を翻訳しました。背景にあるHPT(Human Performance Technology)やISD(Instructional Systems Design)も知らずに直訳したので、理解できることは限られていましたが、人材開発を通して事業成果に貢献するためのプロセスやモデルが既にあること、米国でも人材開発の悩みは同じであることがわかりました。
また、米国でのこうした動向や研修の効果測定の情報を知るようになり、それまでの「お客様の事業から考える」という方向は間違っていないと確信しました。そして、このパフォーマンス・コンサルティングは、かつて答えられなかった「研修効果」に対するひとつの回答を示すものだと思いました。というのは、それが人材開発と事業貢献の関係を明確に示すものだったからです。
以上のような大きな潮流を知った頃には、多くのメンバーが先述したような新しい提案の仕方を実践できるようになり、業績は年々拡大していきました。
2000年からフリーの立場になり、研修の設計や開発をするようになりました。また、支援案件によっては、パフォーマンス・コンサルティングのプロセスやモデルを実際に使うようになりました。そうすることで、実践的な理解が少しずつ進みました。
同時に、パフォーマンス・コンサルティングの背景にあるHPTやISDについて少しずつ勉強を続けました。参考文献にあがっていた原書にあたったり、日本語で実施されているISDのワークショップ(CRI技法)に参加したり、ISPIのカンファレンスに参加したりするようになりました。
とはいえ、背景にあるHPTやISDは、奥が深く、少しかじったくらいでどうにもなるものではありません。
それでも、わからないなりにも知識が少しずつ増えるにつれて、理解も徐々に深まりました。そして、2003~4年にかけて『パフォーマンス・コンサルティング(初版)』の翻訳をすべてやり直しました。この頃には、著者のロビンソン両氏が引用している先人の警句やモデルについて、少し訳注を付けることができるようになりました。
その一方で、ロビンソン両氏は2002年、2005年と新著を出し、その後もパフォーマンス・コンサルティングは進化し続けていたのです。
2007年に『パフォーマンス・コンサルティング(初版)』の翻訳を出版するという幸運に恵まれました。
そして、翻訳を読んでいただいた方から勉強会をやってほしいという声があり、2時間半~3時間のワークショップをするようになりました。ワークショップの参加者のみなさんの表情を拝見していると、HPTの先人やロビンソン両氏のメッセージは日本でも十分に通じるし、有益な部分が多いと感じています。
ロビンソン両氏は2008年に『Performance Consulting(second edition)』を出しました。この本を読むと、世界的にパフォーマンス・コンサルティングの実践が進んでいることが本当によくわかります。この本を翻訳しないと現在どれだけ進化しているかが伝わらない、何とかしたい、そう思って『パフォーマンス・コンサルティングⅡ』の翻訳に取り組みました。そして、2010年8月に出版することができました。
2010年5月のASTDでロビンソン夫妻と朝食をとっていたときのことです。「Hisato、日本でパフォーマンス・コンサルティングのワークショップをやるべきだ」と言われました。その後しばらくして、ロビンソン夫妻から念を押すように以下の一文が入ったメールが届きました。
”Regarding Performance Consulting (PC) in Japan, we both think that you should offer PC workshops and/or seminars in Japan.”
そして、2010年の11月、1日コースのワークショップを始めました。
パフォーマンス・コンサルティングは、今や世界の人事・人材開発関係者の基本となっていると思います。日本企業の人事・人材開発のみなさまにも基本フレームとして毎日のように活用されることを目指しています。この考え方はきっと日本の人事・人材開発に役立つと確信しています。
さらにいえば、パフォーマンス・コンサルティングを実践することで日本企業の競争力の向上に貢献できると思います。また、実践を続けることで日本流のかたちもきっと見えてくると思っています。
誠に微力な上に勉強不足ではありますが、さらなる実践を通してみなさまのお役に立ちたいと思っております。何卒、ご支援、ご指導のほどよろしくお願い申し上げます。
代表取締役 鹿野 尚登
鹿野 尚登 (しかの ひさと)
1998年にパフォーマンス・コンサルティングに出会い、25年以上になります。
パフォーマンス・コンサルティングは、日本企業の人事・人材開発のみなさまに必ずお役に立つと確信しています。
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