パフォーマンス・コンサルティング

HPT、HPIとパフォーマンス・コンサルティング

●まとめ
  • HPIは、HPT、パフォーマンス・コンサルティングを源流としている
  • HPIはASTDがHPTやパフォーマンス・コンサルティングを経営幹部にわかりやすいように言い換えたのがはじまりのようだ
  • パフォーマンス・コンサルティングもパフォーマンス・インプルーブメントも目的は同じだが、提唱者によって実践プロセスや分析モデルに違いがある
  • パフォーマンス・コンサルティングやHPIは広義に使われることが多いので、相手にその定義やプロセス、分析モデルを確認した方がよい

フォーマンス・コンサルティングの考え方が浸透するにつれ、その概念も広がっています。ASTDではHPI(Human Performance Improvement)と言ったり、ISPIは古くからHPT(Human Performance Technology)と言っていたりするので、ややマニアックになりますが、少し整理しましょう。

 

時系列で見れば、「ISPIのHPT」→「ロビンソン夫妻のパフォーマンス・コンサルティング」→「ASTDのHPI」という流れのようです。

ISPI 1992年

1995年

ASTD 1999年

ISPIはHPTの研究と実践で有名なアカデミックな団体です。HPTの基本原理やモデルを開発したグル達は、このISPI(当時はNSPI)で多くの論文や著作を発表していますが、それらがパフォーマンス・コンサルティングとHPIの基盤となっています。

ISPIはHandbook of Human Performance Technologyを1992年に初版、1999年に第2版、2006年に第3版を出しており、2002年頃にHPTの原則を定義しています。ISPIではPerformance Technologyという用語は使いますが、これらのハンドブックのIndex にPIやHPIという用語はなく、ほとんど使わないようです。

 

ASTDのThe ASTD Training & Development Handbook(1995)第18章では、Marc RosenbergがHPTを解説しています。そして、同書のIndexではPI (Performance Improvement)という用語はありますが、HPIはありません。The ASTD Handbook of Training Design and Delivery(1999)でもIndexにHPIという用語は出てきませんが、26章“Leveraging Technology for Human Performance Improvement”の中でHPIのコアテクノロジーとしてHPTを紹介しています。

初版のPerformance Consultingが出版されたのが1995年ですが、ISPI・ASTDとも上記の1999年版のハンドブックでとりあげ、IndexにPerformance Consultingという用語を掲載しています。

同じく1999年に、ASTDはASTD Models for Human Performance Improvement (second edtion)を出しています。この本は、ASTD Expert Panel(1995~1999年)がHRDの専門家に必要な役割やコンピテンシーを調査研究し、まとめたものです。同書のHPIの定義の部分で、HPIはHuman Performance Enhancement、 Human Performance Engineering、 Human Performance Consultingと同義と言える、と述べています(P3)。最後の用語解説では、HPIとHPTそれぞれに対し、短い説明があります。

 

余談ですが、この本の「今後のトレンド」の部分では、「伝統的なトレーニングからパフォーマンスへのシフトが起きている」という趣旨の解説があり、1999年当時の雰囲気が少しわかります。このExpert Panelには『パフォーマンス・コンサルティング』の著者のひとり、ジェームス・C・ロビンソンの名前があります。

瑣末な補足ですが、上記でふれた1999年のASTDのExpert PanelにはISPIの重鎮だった人も名を連ねており、相互の団体が行き来をしながら発展させてきたことが覗えます。

 

ASTDが2008年に出版したハンドブックでは、このあたりの経緯を明確にしています。(Joe Willmoe, The Evolution of Human Performance Improvement, 2008. ASTD Handbook for Workplace Learning Professional, ASTD)。Joe Willmore氏のWebサイトでもほぼ同じ内容の論文が読めます。

この論文を思い切って要約すると、以下のような発展をしてきたと言えそうです。

1978年(写真は復刻版)

G. Rummler 1995年

ASTD 2008年

 HPTの勃興期:

1950~

  1960年代前半

ギルバート、ラムラーなどの研究が始まった。

 HPTの確立期:

1960年代半~
   1970年代半

ギルバートとラムラーのコンサルティング活動、メイガーの著作などを通じ、HPTの基本原理が確立される。

 HPTの発展期:

1970年代半~
   1990年代半

ギルバート、ラムラー、ハーレス、そしてロビンソン夫妻の主要著作が出版される。

Performance
領域の進化成長期:

1990年代半~
     現在

ISPIはCPT、ASTDはCPLPの資格認定を始める。ISPI ・ASTDともに関連するワークショップを開始。

ウィルモア氏は、HPTの発展期(1970年代半~1990年代半)の4者の著作や記事によりHPTがひとつの領域として認知され、ロビンソン夫妻の『パフォーマンス・コンサルティング』により、パフォーマンス・コンサルタントと名乗る人が増えたと述べています。

そして、1990年代後半、ASTDはこの領域をHPIと言った方が潜在的なクライアントである経営幹部にはわかりやすいと判断し、HPIと言い始めたと述べています。つまり、HPIはASTDがコンセプトの普及を考えて、HPT、パフォーマンス・コンサルティングの領域を言い変えたのが始まりのようです。詳しいことはわかりませんが、グローバル化を始め、高まる業績圧力など、様々な構造的な変化が背景にあったと思われます。

 

ちなみに、ロビンソン夫妻は、著書の中でパフォーマンス・コンサルティング、HPT、HPI、Human Performance Enhancement、Performance Engineeringは同じ領域のものだと認めています(Performance Consulting 2008、拙訳『パフォーマンス・コンサルティングⅡ』、P17)。

 

以下は私見です。
2000年以降、ISPIは脈々と続くHPTを再定義し、資格認定をASTDより先に始め、ハンドブックの出版をするなど、従来通りHPTにかかわる活動を続けています。ロビンソン夫妻も2000年以降で3冊の本を出版し、パフォーマンス・コンサルティングを進化させ、HRやODの専門家にも活用されるようになりました。ASTDはHPIという名前で独自のプロセスモデルや分析ツールを発表し、資格認定やワークショップを始めました。ということで、HPTを源流とする大きなパフォーマンスの流れの中には、よくみると複数の流れがあるように思います。

HPIもパフォーマンス・コンサルティングも遡ればギルバートやラムラーなどHPTのグルたちに辿りつくので、基本的な考え方は同じです。とはいえ、そこで終わるとどこが同じで、どこが違うのかわかりませんので、わかる範囲で整理してみました。HPIについては、具体的な分析モデルやツールを詳しく解説した書籍がまだなく、限られた情報しかありません。正確さを期すれば、ASTDのワークショップに参加した上でコメントすべきだと思いますが、そこまではできていません。その意味で、以下の比較は今わかる情報に基づいた暫定的なものです。予めご容赦ください。

HPI-2.bmp

2002年

Joe Willmore 2004年

第2版 2008年

<参考>
Handbook of Human Performance Technology 1992、1999、2006
Performance Consulting second edition 2008
(邦題『パフォーマンス・コンサルティングⅡ』2010年
HPI Essential 2002
Performance Basics 2004(邦題 『HPIの基本』2011年)

微妙な違いは、分析プロセスの括り方やモデルの要素にあると思います。HPIでも『パフォーマンス・コンサルティングⅡ』のように、具体的な分析モデル、プロセス、分析ツール、原因分析、ソリューションの選択、インタビューのコツなどを一冊にまとめた本が出てくれば、もう少し見えてくるような気がします。

 

以上をまとめると、最近ではASTDのように比較的広義な意味合いで「パフォーマンス・コンサルティング」「HPI」を使うことが多くなっていると言えそうです。それだけ浸透してきたということですが、人によってイメージしている「パフォーマンス・コンサルティング」のプロセスや分析モデルが違うことも考えられるので、少し確認した方がよいかもしれません。

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代表者プロフィール

鹿野 尚登 (しかの ひさと)

1998年にパフォーマンス・コンサルティングに出会い、25年以上になります。
パフォーマンス・コンサルティングは、日本企業の人事・人材開発のみなさまに必ずお役に立つと確信しています。

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