パフォーマンス・コンサルティング

研修成果を高めるために−②最初に研修成果を定義しよう

2010.7.24

●まとめ

  • 研修成果を高めるためには、研修を企画設計するときに研修成果を定義しよう。
  • 研修実施後、報告書をまとめるときに初めて「研修成果」を考えるようでは手遅れだ。
  • 研修成果を最初に定義するには、ふたつの観点がある。
  • ひとつは、自社の事業戦略や課題と研修の連動性を明確にすること。そのためには、パフォーマンス・コンサルティングの考え方が役に立つ。
  • たとえば、「この研修で学ぶ**を活用すると、事業戦略で期待している△△という実務行動に役立つ」と具体的に「学ぶことが戦略や実務行動とどうつながっているのか」言えるようにする
  • もうひとつは、研修成果を目で見たり、聞いたりしてわかるようにすること。そのためには、ロバート・メイガーの学習目標の設定の考え方など、IDの知見が役立つ。
  • 具体的には、学習目標を①パフォーマンス、②条件、③基準で示すとよい。
  • ドラッカーの言う知識労働の生産性を高めるためにも「仕事の質」「研修の成果」を最初に定義することが重要だと思う。
1.「研修成果が見えない」というとき

「研修の成果があがらない」「研修の効果が見えない」という話はよく聞きますが、そういう方に次の質問をしてみてください。

研修成果をどのように定義されていますか?

もし、研修コースごとに研修成果を明確に定義されているのであれば話は早く、改善策を考えるのはそう難しくないでしょう。

一方、あいまいな答しか返ってこない場合は、まず研修成果を定義してもらう必要があります。そう言う方の多くは、漠然と「行動化すること」「業績改善につながること」を「成果」とおっしゃっているだけで、実施している研修と自社の戦略や実務のつながりを具体的に説明できないのではないでしょうか?

最初に、研修成果を定義していなければ、結局のところ「成果」は後づけになります。これでは仮説—検証ができず、人材開発投資を任されている部署として、責任が果たせるのか、疑問です。

 

それでは研修成果を定義するにはどうすればよいのでしょうか?

研修成果を定義するには、次のふたつのことをおさえると効果的です。

ひとつは、自社の事業戦略や課題と研修の連動性を明確にすることです。

もうひとつは、研修成果を目で見たり、聞いたりしてわかるようにすることです。

まず自社の事業戦略や課題と研修の連動性を明確にすることをみていきましょう。「成果」というくらいですから、研修を実施することで事業戦略や何らかの課題解決に役に立つものでなければなりません。たとえば、「この研修で学ぶ**を活用すると、事業戦略で期待している△△という実務行動に役立つ」と具体的に「学ぶことが戦略や実務行動とどうつながっているのか」言えるようにするということです。

そうするためには、研修設計段階で取り組むことがあります。たとえば、現場で事業戦略を体現しているような従業員をインタビューして、彼らのどのような実務行動が高い成果を生み出すカギなのか突き止めたり、研修で学ぶ知識やスキルがそれらの実務行動にどのように役に立つのかを確認したり、いろいろ調べることが必要になります。

パフォーマンス・コンサルティングでは、ここまで取り組むので研修の成果が明確に言えるわけです。研修成果を高めるためには、このような仕事の進め方が必要になりますが、次のコラムで詳しく取り上げようと思います。

2.学習目標の設定が大事

次に、研修成果を目で見たり、聞いたりしてわかるようにするということを考えていきましょう。以下の3つ研修のねらい(学習目標)を比べてください。

学習目標の3つの例
 研修内容

 研修のねらい(学習目標)

 A

 課長研修

 管理者の立場と役割について認識を深める

 B

 新入社員研修

 自社について理解を深める(自社について自分の言葉で説明できる)

 C

 実務研修

  一か所故障のある10馬力以下の直流モーター、工具一式、参照文献を与えられて、モーターを修理できること。修理は45分以内に終了するものとし、工場の仕様から5%以内の誤差範囲内で運転できること。

 

Aの場合、何がどうなったら「管理者の立場と役割が深まった」と言えるのでしょうか?このままの目標であれば、何をもって成果があったと判断するのか困るでしょう。この目標は一見すると抽象的、定性的な状態を言っていますが、少し考えただけでも、以下のように様々な観点やレベルで成果を定義できます。

 

A.課長研修の成果の定義例

  • 自組織の実務に置き換えて、課長としてやるべきこととその意味を説明できる
  • 自組織の戦略を踏まえて担当組織の目標を設定し、メンバー一人ひとりに目標をブレークダウンし、動機づけている
  • 部長や部下から見て、課長らしい言動をとり、高い業績をあげていると賞賛されている

 

これらはあくまでも例ですが、このように研修成果を定義すれば到達できたかどうか判断できます。未達成でも、どこが不足しているのか具体的に指摘できるでしょう。読者の中には、それぞれどうやって測定するのか気になる人もいらっしゃるかもしれませんが、まず「見たり・聞いたり」してわかる基準を明確にすることが大事なポイントです。

 

Bの場合、(自社について自分の言葉で説明できる)がひとつの基準になっています。新入社員に、「わが社について3分で説明してください」と言えば、実際にどこまで理解しているか、すぐにわかるでしょう。

Cの例は、実はインストラクショナル・システムズ・デザイン(ISD)で有名なロバート・メイガーの著書、『研修目標の設定』(原書1984年、邦訳1997年)からの引用です。ISDもインストラクショナル・デザインも実務の具体的なタスクに焦点を当てて設計しますので、このように成果を示す基準が非常に明確です。メイガーは学習目標を次の3つで示すことを提唱しています。

 

メイガーの学習目標の3要件

  • パフォーマンス:受講者が学習してできなければならないこと
  • 条件:上記のパフォーマンスを発揮するときに使うもの、使わないものなど
  • 基準:学習したと認めることができるパフォーマンスの品質、レベル

メイガーは次のように言っています。

研修目標とは、研修成果を述べるものであって、研修のプロセスや手順を述べるものではない」

研修成果を高めるためには、特に3つ目の「基準」をしっかり考える必要があります。少し長くなりますが、もう少し考えていきましょう。

 

「研修のねらい」として、次のような表現はおなじみではないでしょうか?

 

研修成果が曖昧な研修のねらい(例)

  ① ○○意識の醸成
  ② ○○の認識を深める
  ③ ○○を理解する
  ④ ○○を習得する
 

 

①と②は、先ほどの3つの例のAと同じです。この抽象的な状態を定義しないと、成果があったかどうか判断できません。③は、Bの例と同じで、知識の理解レベルがわかるように定義すればよいでしょう。④は、Cの例と同じで、スキルの習得レベルがわかるように定義すればよいでしょう。

3.最初に「研修成果」を定義しよう

ここでもうひとつ考えることがあります。研修目標が①~④のどの表現だとしても、成果として本当に行動レベルで変わることを期待するのであれば、目で見てわかる行動として定義することが必要です。そして、業務上の成果を期待するのであれば、それを研修成果として定義しなければなりません。

つまり、カークパトリックの4レベルで言えば、2~4のレベルのどこまでを成果としてねらっているのか、最初に決めておくということです。とはいえ、それぞれバラバラに定義するのでは意味がなく、最初の方で述べたように「学習したこと~実務行動~成果」の連動性が必要です。

オランダの金融企業INGの効果測定の事例発表(2010年ASTD)では、カークパトリックの4レベルそれぞれに対応する指標を決めていました。正確に聞きとれていないかもしれませんが、初期の段階で最終的な研修成果(4レベル)としてみるKPIを決めたと言っていたと思います。

 

余談ですが、こうした「定性的な成果を定義するのは、面倒だし、難しい」ということを言う人はたくさんいます。筆者は過去9年間で管理職約3000人に評価者研修を実施し、80数職場の評価者をインタビューして管理者向けの目標設定研修のケースを70件開発してきましたが、その中でこうした声をたくさん聞いたことがあります。

特に、本社スタッフや事業ラインのスタッフの管理職の方は、「うちの仕事は数字にはできません」とおっしゃる方が多いのですが、よく話を聞いていくと「定性的な成果について、○○をみている」と、定性的な基準を持っていらっしゃる場合がほとんどです。

これに関連して、ドラッカーの引用をしておきます。『明日を支配するもの』(1999年)の中で、ナレッジワーカーの生産性向上について次のように言っています。

 

ドラッカーのことば

知識労働の生産性は、仕事の質を中心に据えなければならない。しかも、最低を基準としてはならない。最高ではないにしても、最適を基準としなければならない。量の問題を考えるのは、その後である。このことは、知識労働の生産性の向上には、量ではなく質の面から取り組むべきことを意味するだけではない。まずもって、仕事の質を定義すべきことを意味する

 

まとめるとこうなります。研修成果を高めたいのであれば、最初に研修成果を定義するひとつは、事業戦略や課題と研修の連動性をはっきりさせること。もうひとつは、研修後、自社の現場で見たり、聞いたりしてわかる基準を決めること。

 

パフォーマンス・コンサルティングでは、最初に事業成果のあるべき姿とターゲットの従業員のパフォーマンス(実務行動)のあるべき姿をいろいろと調べて定義します。つまり、目指すべき成果(業績と行動)が何なのか、まず明確にするのです。したがって、研修やその他のソリューションを実施した後、それらのあるべき姿と比較して成果確認がシンプルにできるわけです。

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代表者プロフィール

鹿野 尚登 (しかの ひさと)

1998年にパフォーマンス・コンサルティングに出会い、25年以上になります。
パフォーマンス・コンサルティングは、日本企業の人事・人材開発のみなさまに必ずお役に立つと確信しています。

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