ASTD 2011報告-① 現代自動車のパフォーマンス・コンサルティング

2011.06.17 

2011年のASTDでもパフォーマンス・コンサルティングの浸透を感じました。今年はお隣韓国の事例です。正確に聞きとれていないところが多々ありますので、概要としてご理解ください。また、わかりやすくするために発表の順番と違う構成にしたり、ハンドアウトになかったことを補足したりしたところがあります。

1.現代自動車
Performance Consulting at Hyundai-Kia:
Linking Training and Business Results

 

この事例を一言で言うと、現代自動車のHRDセンターが学習中心の部門からパフォーマンス中心の部門に移行するために、プロジェクトを立ち上げ、パフォーマンス・コンサルティングの原理を学びながら、パイロット的にCS部門のパフォーマンス改善に取り組んだというものでした。プレゼンは現代自動車のマネジャーとオハイオ州立大学の教授二人によって行われました。

 

①パフォーマンス改善部門を志向した背景

 

2003年の現代自動車と起亜自動車の統合を機にHKMC HRDセンターが設立されました。それ以降、当初は、R&D、生産、保守メンテ部門を対象に実務教育を中心に行っていたそうです。2007年に新HRD方針を定め、グローバルの従業員に構造化された研修を提供し、専門性を高めると決めたようです。

ちなみにHRDセンターの部門ミッションは「グローバルに競争力のある人材を育成し、自社の価値観や文化を共有する」というものです。

そこで、シニアエグゼクティブVPが「HRDセンターは自社の戦略目標達成に役立つツールであるべきだ。HRDが提供するプログラムと事業成果は連動していなければならない」と方針を示し、パフォーマンス改善部門へのシフトが始まったのです。

学習部門からパフォーマンス改善部門に移行するにあたり、次のような問題意識が背景にあったそうです。これはみなさんにもおなじみの問いであり、世界共通だと感じるのではないでしょうか。

  • 提供している研修プログラムは本当に職場のパフォーマンス改善に貢献しているのか?
  • パフォーマンス改善の方法として、研修というソリューションを単独で実施する以外に他の方法はないのか?
  • 研修プログラムをさらに効率よく、効果的なものにできないか?
  • HRDセンターが提供したものが組織にどのような成果を生んだのか、ドキュメント化できないか?

 

②パフォーマンス・コンサルティング・プロジェクトの位置づけ

 

このプロジェクトは、現代自動車と米国・オハイオ州立大学の産学協同プロジェクトです。現代自動車はオハイオ州立大学からHPT(Human Performance Technology)やパフォーマンス・コンサルティングの専門知識やスキルを学び、オハイオ州立大学は現代自動車から現実の問題、理論を実践する場を得たわけです。つまり、Win-Winということです。

現代自動車としては、このプロジェクトに大きくはふたつのねらいがあったようです。ひとつは、HRDセンターから選抜されたスタッフがこのプロジェクトでパフォーマンス・コンサルティングのプロセスを体験し、パフォーマンス・コンサルティングの実践に必要な能力を習得することです。ふたつ目は、これを機にパフォーマンス・コンサルティングの仕事の進め方が全社的に広まり、それがグローバル基準になるということです。

HRDセンター内の組織体制も変え、パフォーマンス・コンサルティングに取り組むスタッフを選抜し、HRDソリューションチームを立ち上げています。

以下は、現代自動車とオハイオ州立大学がこのプロジェクトで取り組んだことです。

  • パフォーマンス・コンサルティング、HPTの最新モデルを現代自動車グループに適用する
  • 選抜されたHRDスタッフには専門性を高める教育(6か月)を行い、彼らはパフォーマンス・コンサルティングに特化して取り組む
  • パフォーマンス・コンサルティングのプロセスに取り組む初期段階では、HRDスタッフにコーチングやフィードバックを与え、支援する
  • 現代自動車で実践したパフォーマンス・コンサルティングのプロセスを評価し、改善策を提言する
  • 実践から得た経験と成果をHRDの実務家、学術研究者双方で共有する

オハイオ州立大学Workforce Development and Educationのニューズレター(2010年夏P5)でもこのプロジェクトの概要が紹介されています。余談ですが、2010年冬のニューズレターをみると韓国の方が結構ここで学んでいることがわかります。


③プロジェクト前半「学び」(2010年4月~9月)

 

選抜されたHRDスタッフが専門性を高めるために学習したのは、パフォーマンス・コンサルティング、ISD(インストラクショナル・システムズ・デザイン)、OD(組織開発)についてです。最初は、ソウルでケーススタディなどをやったということでした。その後で、オハイオ州立大学に行って学んでいます。

発表資料を見ていると、現代自動車なりに、パフォーマンス・コンサルティング、ISD、ODを再定義し、吸収しようとしている感じです。

このプロジェクトを指導された、オハイオ州立大学のJacobs教授は、ロビンソン夫妻のPerformance Consulting second edition (拙訳『パフォーマンス・コンサルティングⅡ』)の定義も踏まえ、パフォーマンス・コンサルティングを次のように定義していました。

「クライアントとHRDスタッフが協力しながら、組織におけるヒューマンパフォーマンスの問題を正確に理解し、解決するアプローチで、システムアプローチの活用を重視する」Jacobs, 2010

ここで言うシステムアプローチとは、「まず問題状況のあらゆる側面を考慮し、そのあとで解決方法を考えるアプローチ」と補足しています。

言うまでもありませんが、ロビンソン夫妻もJacobs教授もHPTを基本にしていますので、プロセスは同じです。大きな流れは、ヒューマンパフォーマンスの問題を特定し、その原因を突き止め、原因に対応したソリューションを開発するというものです。そして、表現の違いは若干ありますが、エントリーフェーズ、パフォーマンス現状分析フェーズ、ソリューション開発フェーズ、効果測定フェーズという4フェーズで設計されていることも同じです。

少し細かく言うと、このプロジェクトでは、将来のヒューマンパフォーマンスの問題を「ミッション・製品・サービスの変更に伴う将来予想される問題」と「事業運営の仕方を今後変えることで予想される問題」のふたつ分け、丁寧に整理していました。

ソリューション開発フェーズにはわずかな違いがありました。このプロジェクトでは、ソリューション開発の観点として、最初から①研修開発、②パフォーマンスサポート開発(学習したことを職場で活かすための施策)、③組織開発の3つを決めていました。おそらく、その方が実務的だと判断されたのだと推測されます。『パフォーマンス・コンサルティングⅡ』ではもう少し幅広い観点でとらえています。

 

④プロジェクト後半「実践」(2010年9月~2011年5月)

 

パイロットケースの対象となったのは、CS部門です。
パフォーマンス・コンサルティングの最初のフェーズは、エントリーフェーズです。このフェーズでは、クライアントの要望を聞き、その上でパフォーマンス現状分析に取り組むことに合意を得る必要があります。ここで少し苦労があったようです。というのは、多くの日本企業でも同じだと思いますが、従来のHRDセンターでは、クライアントが見立てた問題を聞いたら、「はいわかりました。それを解決する研修を開発しましょう」というように対応されていたからです。

パフォーマンス・コンサルティングではこの対応を変えることになります。というのは、クライアントが言っている問題や原因の見立てが本当に適切かどうか分析しなければわからないという前提に立つからです。仮に、ふたつ返事で研修を引き受けたとして、その問題が研修で解決しなかった場合、投資に見合う効果は得られないかもしれません。パフォーマンス・コンサルティングでは、現状をしっかり分析し、クライアントが問題を正確に理解し、本当の原因を把握できるように支援し、ソリューションを提案します。しかも、研修だけでなく、研修以外のソリューションを提案します。

クライアントはこうしたパフォーマンス・コンサルティングの考え方を全く知らないため、「何を言っているの?」という感じだったそうです。ここが、学習中心の部門を目指すのか、パフォーマンス中心の部門を目指すのかで大きく分かれるところです。とはいえ、すんなりと理解してもらったわけではなさそうです。しかし、最終的にはクライアントの問題意識に基づき、パフォーマンス・コンサルティング・プロジェクトの契約をし、3C分析から着手したようです。

パフォーマンス現状分析フェーズでは、パフォーマンスのあるべき姿を定義し、現状とのギャップを明らかにして、その主要な原因を特定します。このプロセスでは、マネジャー40人にインタビューし、2398人にサーベイを実施しています。

ソリューション設計フェーズでは、原因分析結果を踏まえ、クライアントの受容性、効率を考慮して、インターベンションを選択します。このプロジェクトでは以下のようなソリューションを選択したようです。

 

A.研修ソリューション●CS学習センターを設立
●CS開発システムの確立
●CS教育プログラムのカスタマイズ
B.研修以外の長期的な取り組み●コミュニケーション手段の改善
●CS業務・プロセスのドキュメント化
●経営陣と課題を話し合うCS委員会を設置
C.研修以外の短期の取り組み●CS部門のミッション・ビジョンを作成し、共有
●お客様からのフィードバックへの対応
●CS評価システムの改善
●業績評価システムの制度化
●CS担当の採用基準策定

 

上記のソリューションを本格的に実行し、効果測定するのはこれからということでした。

 

⑤まとめと今後の課題

 

このプロジェクトでは大きく3つのことを変えることに取り組んでいます。

まず、部門としての焦点を変えることです。従来は「研修プログラムを提供する」ことが中心でしたが、「組織業績を向上させる」ことを中心に取り組んでいます。

ふたつ目は、仕事の仕方です。従来は「クライアントの要求に基づいて研修を開発・実施」していましたが、「問題を分析し、ソリューションを開発し、効果を測定する」というパフォーマンス・コンサルティングのプロセスに変えています。

3つ目は部門の存在意義です。従来は「あればよい支援部門(コストとして見られる)」だったわけですが、「組織ミッションに貢献する経営のパートナー」として見られはじめたということでした。

 

今後の課題としては次のことをあげていました。

  • パフォーマンス・コンサルタントとしての専門性の向上:システム思考、コンサルティングスキル、パフォーマンス問題解決、ニーズアセスメント、効果測定など
  • HRDスタッフにパフォーマンス・コンサルティングの重要性を確信してもらう
  • 成功したことをドキュメント化し、課題はオープンにする
  • クライアントにパフォーマンス・コンサルティングのプロセスを啓発する
  • 経営陣にパフォーマンス・コンサルティングのプロセスを支援してもらう

 

発表後、ノンネイティブの人を含め、たくさんの質問が続いたこと、終了後すぐに名刺交換の長い列ができたことは、聴衆の関心の高さを示していました。

大学でHPTを学びつつパフォーマンス・コンサルティングのプロセスを実践するというところに、会社の本気度合いが窺えます。また、この方針を打ち出したシニアエグゼクティブVPがニコニコ聞きながらこのセッションに参加していたことに驚きました。ラップアップで、現代自動車の人が「パフォーマンス・コンサルティングを実践していくためには、HRDスタッフにもトップにも勇気が必要」と言っていたことがとても印象的でした。

 

以下は、CREDU(eラーニングに特化したサムスングループの会社)、サムスンSDSのセッションを取り上げます。現代自動車とは直接関係ありませんが、韓国企業のパフォーマンス志向をよく示している事例なので、少しふれておきます。 実際は演習形式で行われましたが、ここでは発表趣旨だけを整理します。

 

2. CREDU
Measuring E-Learning Using the Four-Levels and Success Case
Method

 

若手の営業担当者(2~5年)向けのeラーニングの効果測定をカークパトリックの4レベルとSuccess Case Method (以下SCM)の考え方を取り入れて行ったという事例発表でした。発表者はソウル大学のChan Lee教授とCREDU(eラーニングに特化したサムスングループの会社)のディレクター(Ph.D)のふたりでしたが、ほとんどChan Lee教授がプレゼンしていました。

SCMはBrinkerhoff教授が10年くらい前から提唱している効果測定手法で、本も何冊か出ています。ここ数年、シスコシステムやDellなどいろいろな企業が事例発表していますので、効果測定手法としては有名です。SCMは、受講者が学習したことを実際に活用して成果をあげた成功例(Success Case)に注目し、本来の研修の目的であるパフォーマンス改善につなげようという発想があります。ここがパフォーマンス志向につながる部分です。

このセッションの重点は、実際の効果測定の結果ではなく、取り組んだプロセスにありました。どのようなeラーニングだったのか、それぞれの手法で測定した結果どうなったのか、という具体的な話を期待していた聴衆には、やや拍子抜けといった雰囲気でした。

4レベルとSCMをそれぞれ以下のように位置づけて解説していました。

  • 経営から求められているのは成果業績であり、受講者数、実施回数ではない
  • 効果測定のモデルとしては完璧なものはない
  • カークパトリックの4レベルで言えば、レベル1~2はよいが、レベル3の行動化、レベル4の業績の把握の仕方は難しい
  • SCMは学習したことを実務でどのように活かしたのかを把握する上で効果的であり、レベル3の内容がわかる
  • SCMの考え方を取り入れたが、レベル4は研修以外の要因が多く、信頼のおける調査が難しいので、レベル3までしか行わなかった
  • SCMは学んだことを実務に活かす促進要因を特定するので、ふつうの受講者が学習内容を実務に応用できるようになるための有益な情報が得られる
  • SCMは、サーベイをとった後からインタビューをしていくので、時間がかかるし、インタビューのスキルが必要になることが難点

プレゼンをしたソウル大学Chan Lee教授は、米国LGに勤務後、オハイオ州立大学でPhDを取得しています。ASTDで2007年以降発表しており、中東のカンファレンスでもプレゼンの実績があります。ジョークを交えながら堂々とプレゼンしている姿が印象的でした。

 

3.サムスンSDS
Global Performance Improvement Model at Samsung

 

サムスンSDS(サムスン電子の子会社、従業員1万1678人、年商30億ドル)がインドの子会社(ソフトウェア開発)で、パフォーマンス改善に取り組んだという事例です。発表はサムスンSDSのHRコンサルタントのSoo Jung Kimさん(Ph.D)がしていました。

このインドのソフトウェア開発子会社は2009年にできたばかりです。この取り組みのきっかけは、マイクロソフトに10年勤務したチーフエンジニアが、携帯電話の組み込みソフトのテスト工程の技術者に対し、ほとんど教育がされていないことに問題意識を持ったことだったようです。

後で調べてみてわかったのですが、携帯電話の組み込みソフトのテスト項目は万の単位と膨大で、マニュアルでは効率がわるいのでインドや中国などオフショアに移転され、自動化もしてきたようです。

このパフォーマンス改善の取り組みの中心は、テスト工程の管理職、技術者、作業員の育成体系をつくることでした。そのために現状を分析し、あるべき姿としてコンピテンシーを定義しています。そして、ギャップ分析をして重要度の高いコンピテンシーを明確にし、その開発方法(研修の体系)やプロセスを提言しています。

 

発表の重点は、このプロセスで活用したさまざまなモデルやツールでした。たとえば、以下のようなものです。

 

①現状分析
  • 現状分析をするためのインタビュー質問項目
  • インタビュー内容からあるべき姿を導くためのテンプレートなど
②あるべき姿の整理
  • 必要とされるコンピテンシーの現状レベルと重要度を判定するサーベイの尺度
  • コンピテンシーの優先順位づけをする枠組み
  • 階層別に教育体系を整理するためのテンプレート
  • コンピテンシーを改善していくプロセスなど

 

余談ですが、コンピテンシーモデルを設計するときに、インドにはハイパフォーマーがいないので、本社のハイパフォーマーにインタビューしたそうです。実際に抽出したコンピテンシーは150項目あったということでした。また、パフォーマンス改善をするためには、業務の背景を理解することが重要だと言っていました。

 

この取り組みでパフォーマンス改善らしいところは、ふたつあると思いました。

ひとつは、現状とあるべき姿をしっかりと定義し、そのギャップを明確にしているプロセスです。もうひとつは、コンピテンシー開発の方法として、必要な研修を導くところで、研修以外にインセンティブや職場環境に対する打ち手を併せて考えるようにテンプレートを設計しているところです。

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代表者プロフィール

鹿野 尚登 (しかの ひさと)

1998年にパフォーマンス・コンサルティングに出会い、20年になります。
パフォーマンス・コンサルティングは、日本企業の人事・人材開発のみなさまに必ずお役に立つと確信しています。

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