パフォーマンス・コンサルティング

ASTD 2009 報告-② T.ギルバートの行動エンジニアリングモデルの進化・発展

 2009.7.30

T.ギルバート(Gilbert)はHPT(Human Performance technology)の元祖と言われ、著書Human Competence−Engineering Worthy Performanceはパフォーマンス改善の古典として有名です。

そのまえがきで、「この本では人間の能力を高めるための理論書を目指した」といった趣旨のことを述べています。

 

そのための要件として、
人の能力や有能であることを定義し、
その測定手法を定め、
人の能力を向上させるための工学的なアプローチのモデルをつくり、
職場や学校で応用できるようになっていること、
を掲げ、これらを満たしたと述べています。

 

非常に格調の高い英語で、私の英語力ではかなり難しいのですが、ギルバートの高い理想と熱い想いは伝わってきました。

この本で紹介されている行動エンジニアリングモデル(Behavior Engineering Model)は、今もパフォーマンス改善の基本モデルとして活用されています。それだけでなく、Carl Binderや Roger Chevalierを始め、多くの人が現在の職場に合わせて進化させています。

ASTD 2009では、この行動エンジニアリングモデルを発展させて活用している事例として、コンサルティング会社Beacon Performance GroupとUS Coast Guardの発表に参加しました。

SU206 Transferring Critical Skills & Knowledge of Your Baby
Boomer’s Before They Leave

 

発表者のMankinさんは、ギルバートのHuman Competenceを14回読んだと言っていたので、まず驚きました。

セッションとしては、ここ数年増えているテーマですが、ベビーブーマーのコツやノウハウを若い世代にきちんと引き継ごうというものです。

そのためには、引き継ぐべき重要なスキル・知識を見つける必要があります。そこで、このコンサル会社が開発したPerformance DNA Dashboardというインタビューツールを活用しようということです。このツールは、以下のように行動エンジニアリングモデルの枠組みをもとにつくられています。

 T.GilbertD.Mankin 

1.期待成果1.物理的資源・職場環境

 
2.職場の機器・ツール2.業務プロセス・情報資源 
3.インセンティブ3.マネジメント・組織的な支援 

4.知識4.スキル・知識 
5.能力5.技術的資源と支援 
6.動機6.タレント・能力・動機 

もともとギルバートのモデルには、上記の6つの要因についてパフォーマンスを低下させる要因があるかどうかを確認する問いがあり、チェックリストとして使えるようになっています。

Mankinさんのインタビューツールにも同様に質問が用意されています。

まず、それらをざっと訊いていき、掘り下げる要因の見当をつけます。
たとえば、3.マネジメントでは「担当している仕事のパフォーマンスが高まるようなフィードバックをタイミングよくしてもらっていますか」というような質問をいくつかするのです。

もし、この答えがNoであれば、その次に、マネジメントのフィードバックについて、
「この仕事のパフォーマンスを高めるには、それにふさわしいフィードバックのタイプがありますか?もしあるのであれば、それはA.タイムリーであること、B.具体的であること、C.頻繁であること、D.・・・のどれですか?」
というような詳細な質問が各要因別に用意されているというわけです。この部分を演習として体験させていました。

このようなインタビューをターゲットのハイパフォーマーに行います。その結果からパターンや傾向を分析し、ベビーブーマー独自のスキルや知識、ツールなどを明らかにし、共有していくのです。ターゲットにしているのはマネジメント、技術者、営業職などです。

HRD JAPAN 2008の資料によると、日本の製造業では現業系の技能伝承をしていくのに暗黙知の伝承を重視し、師匠について一緒に仕事をする方法が採られています。それとは対照的に、このアプローチは米国の形式知化が感じられ、興味深いと思います。

Exemplary Performance, 2013

行動エンジニアリングモデルを現在の職場環境に合わせてアップデートしています。

パフォーマンス改善のモデル、事例がよくわかります。

優秀な人材の実務行動を緻密に分析し、業績の底上げをするプロセスがわかりやすく解説されています。

職場環境へのアプローチが中心です。

W105 Pushing Management’s Buttons to Improve Performance

 

US Coast GuardのHarttさんは、ギルバートのBehavior Engineering Model、 Carl Binderの6Boxを参考にして、Performance Buttonというモデルを作っています。

以下のようにパフォーマンスにかかわる要因が増えて、8つになっています。これはCoast Guardの業務に合わせて開発したと言っていました。

 組織パフォーマンスボタン

 情報

 資源

 インセンティブ

 採用・任務

 個人パフォーマンスボタン

 知識

 スキル

 動機

 能力

パフォーマンス問題の原因は、組織要因85%、個人要因15%で、研修で解決できるのはこの15%に相当すると言っています。

つまり、ギルバートと主張していることは同じで、研修という安易なボタンを押しても問題は解決しない、ということです。

さらに、マネジメントが「研修をやってくれ」と言ってきたときには、「何が業績向上の阻害要因か?」と聞いて、その要因がこのモデルのどこに当てはまるのかを解説するとよいと言っていました。

組織要因の中に採用・任務をあげた理由として、ケビン・コスナー主演の映画「守護神(Gurdian)」の話を引き合いに出していました。確かに、あの映画では厳しい身体能力テストでマッチョな若者が次々にふるい落とされていました。

また、Harttさんは「ギルバートのモデルはアカデミックすぎるし、内発的な動機を考慮していない。ギルバートが期待成果(data)や職場の機器・ツール(instrument)で言っていることは概念が狭いので広げた」「Binderのモデルの能力要因から採用を切り離して組織要因とした」「個人要因と組織要因の定義を厳密にした」といった趣旨のことを言っていました。

 

余談ですが、US Coast GuardはHPTの実践に熱心で、ISPIの大会でも毎年のように事例発表しています。また、ISPIから数多くのAwardを受賞しています。

もうひとつ余談ついでに言うと、US Coast Guard はPerformance Technology Centerを設立していますが、US NavyではHuman Performance Centerを設立しています。

 

本の紹介:Exemplary Performance(行動エンジニアリングモデルを現代化)

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代表者プロフィール

鹿野 尚登 (しかの ひさと)

1998年にパフォーマンス・コンサルティングに出会い、25年以上になります。
パフォーマンス・コンサルティングは、日本企業の人事・人材開発のみなさまに必ずお役に立つと確信しています。

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